輸液の液面が点滴セットの点滴筒以下にまで落ちてしまった時の対応:クランプ・ミルキング法
今日は、日本麻酔科学会第58回学術集会の3日目最終日だ。当ブログ管理者は残念ながら留守番である。そこで、本稿では、学会などでは得られない、日常的な麻酔診療に役立つ、とびきりのテクニックを紹介する。
病棟でもしばしば見かけるが、持続点滴をしている患者さんで、気が付くと輸液ボトルが空になっていて、すでに液面が点滴セットのチャンバ(点滴筒)以下にまで落ちてしまっていることがある。特に手術・麻酔中の点滴速度は比較的速いために、こういったことは日常茶飯である。
輸液ポンプを使用していて予定量を設定している場合や、点滴筒に検知機などを付けて作動させているような状況では、こんなことは起こらないのだが、通常の手術中には、わざわざ輸液ポンプを使用したりはしないので、チューブ内にエアが入ってしまっているということが日常的によくある。
チューブ内に入ったエアをなんとかして取り除かないといけないのだが、この方法には従来からいくつかの方法があり、看護師向けの雑誌などに、ときおり記載があるが、それぞれ、一長一短がある。
【 三方活栓法】
・点滴ラインの途中にある三方活栓に注射器を付けて、エアを抜き取る。
・長所:点滴筒と三方活栓の間ならどこまでエアが入っていても確実にエア抜きできる
・短所:シリンジや酒精綿が必要、三方活栓の蓋を操作する必要がある
【ボールペン法】
・ボールペンのように細くて硬い物や、自分の指などに、患者側から点滴筒側に向けて、点滴チューブを強く圧迫しながら巻くことにより、チューブ内の液体を点滴側に押し返すことでエアを抜く。
・長所:ボールペン、あるいは自分の指だけでできる
・短所:液面が下がりすぎていると困難
【逆流法】
・点滴ボトルを患者さんの点滴部位の高さよりも低い位置まで下げて、重力に従って血液を点滴チューブ内に逆流させることにより、エアを点滴筒側に逆流させる。
・長所:何もなしでできる
・短所:チューブ内に血液が逆流するので、それを急速輸液で血管内に押し戻す必要があり、見た目に美しくない
もっとも一般的に行なわれている方法は、「三方活栓法」であろうが、感染の機会を増やすという意味からは、もっとも推奨できない方法である。「ボールペン法」は、液面が点滴筒に近い場合は、かなり有用な方法であるが、液面が点滴筒から遠いときには限界がある。「逆流法」は、静脈留置針からうまく血液が逆流すれば、有効な方法ではある。だが、輸液ボトルを点滴台からはずして、(不潔な)床面に近づけないといけないという点もあまりやりたくない行為である。
そこで、今回の記事で紹介したいのは、当院で6年くらい前から行なっている「クランプ・ミルキング法」である。以下にその方法を記す。
(1)まず、点滴ラインに三方活栓が付いていれば、その三方活栓を 45 度なり 90 度なりねじって、ひとまず点滴チューブ内の液体がそれ以上患者側に移動しないようにする。
(2)次に、クランプを最大限に緩めて、クランプの場所をスライドさせて点滴チューブ内の液面よりも 10~20 cm 患者側になるように移動する。
(3)そのクランプを今度はしっかり閉じる。
(4)クランプの患者側のチューブを術者の親指以外の左手指 4 本に一度巻きつけてしっかり握る。
(5)クランプ上端を右手でしっかり把持して、点滴筒側へ、無理やりスライドさせる。この時、点滴チューブはほとんど「キシメン状」になるはずである。ここでクランプ内の回転車には指を触れないようにすることがポイントである。
(6)点滴筒にまで液面が上昇したら、点滴筒を押してさらに液面を上昇させてやる。
(7)クランプゆっくりゆるめると、輸液ボトルから液体が補充されるとともに、「キシメン」状の点滴チューブはほとんど元の状態に戻る。
(8)三方活栓を元の位置にもどす。
以上で、完了である。
1.シリンジや酒精綿、ボールペンさえ要らない。何も必要ない。
2.輸液ボトルを触る必要がない。
3.点滴チューブ内に血液が逆流することがない。
4.液面が点滴筒からかなり遠くても実行できる。
短所は、点滴セットのメーカーがけっして推奨はしないということだけだ。
最初、やり始めるときは、点滴チューブが切れてしまうんじゃないかとか、考えてしまうのだが、かれこれ、当院で私個人だけでも 1000 回近くは行なっている計算になり、おそらく看護スタッフや同僚医師を含めると 1 万回近く行なっているのではないかと思うのだが、これまでのところ点滴チューブが切れたという経験もうわさも一度も聞いたことがない。
「ものは試し!」というじゃありませんか。是非、一度お試しあれ!
ちなみに、麻酔科医である私は、この方法を発見する以前から、なんとか点滴筒よりも液面が下にならないような工夫はできないものだろうかと考えていた。「点滴筒内にフロートを浮かべておいて、液面が低下したら、自動的に停止させることができないだろうか?」と特殊な点滴筒を自作してみたりもした。
ある日、点滴チューブを簡単にミルキングできる道具の自作を試みていたとき、なかなかうまくできずに半ば諦めかけていたとき、目の前にあるクランプが格好のミルキング・デバイスになることを発見したのである。
クランプは本来、点滴の速度を調節するためのものであり、閉めた状態で移動させることなどは想定されていないが、それを無理やり移動させることで、ミルキング・デバイスとしても利用できるということに気付いたのである。
病棟でもしばしば見かけるが、持続点滴をしている患者さんで、気が付くと輸液ボトルが空になっていて、すでに液面が点滴セットのチャンバ(点滴筒)以下にまで落ちてしまっていることがある。特に手術・麻酔中の点滴速度は比較的速いために、こういったことは日常茶飯である。
輸液ポンプを使用していて予定量を設定している場合や、点滴筒に検知機などを付けて作動させているような状況では、こんなことは起こらないのだが、通常の手術中には、わざわざ輸液ポンプを使用したりはしないので、チューブ内にエアが入ってしまっているということが日常的によくある。
チューブ内に入ったエアをなんとかして取り除かないといけないのだが、この方法には従来からいくつかの方法があり、看護師向けの雑誌などに、ときおり記載があるが、それぞれ、一長一短がある。
【 三方活栓法】
・点滴ラインの途中にある三方活栓に注射器を付けて、エアを抜き取る。
・長所:点滴筒と三方活栓の間ならどこまでエアが入っていても確実にエア抜きできる
・短所:シリンジや酒精綿が必要、三方活栓の蓋を操作する必要がある
【ボールペン法】
・ボールペンのように細くて硬い物や、自分の指などに、患者側から点滴筒側に向けて、点滴チューブを強く圧迫しながら巻くことにより、チューブ内の液体を点滴側に押し返すことでエアを抜く。
・長所:ボールペン、あるいは自分の指だけでできる
・短所:液面が下がりすぎていると困難
【逆流法】
・点滴ボトルを患者さんの点滴部位の高さよりも低い位置まで下げて、重力に従って血液を点滴チューブ内に逆流させることにより、エアを点滴筒側に逆流させる。
・長所:何もなしでできる
・短所:チューブ内に血液が逆流するので、それを急速輸液で血管内に押し戻す必要があり、見た目に美しくない
もっとも一般的に行なわれている方法は、「三方活栓法」であろうが、感染の機会を増やすという意味からは、もっとも推奨できない方法である。「ボールペン法」は、液面が点滴筒に近い場合は、かなり有用な方法であるが、液面が点滴筒から遠いときには限界がある。「逆流法」は、静脈留置針からうまく血液が逆流すれば、有効な方法ではある。だが、輸液ボトルを点滴台からはずして、(不潔な)床面に近づけないといけないという点もあまりやりたくない行為である。
そこで、今回の記事で紹介したいのは、当院で6年くらい前から行なっている「クランプ・ミルキング法」である。以下にその方法を記す。
【クランプ・ミルキング法】
(1)まず、点滴ラインに三方活栓が付いていれば、その三方活栓を 45 度なり 90 度なりねじって、ひとまず点滴チューブ内の液体がそれ以上患者側に移動しないようにする。
(2)次に、クランプを最大限に緩めて、クランプの場所をスライドさせて点滴チューブ内の液面よりも 10~20 cm 患者側になるように移動する。
(3)そのクランプを今度はしっかり閉じる。
(4)クランプの患者側のチューブを術者の親指以外の左手指 4 本に一度巻きつけてしっかり握る。
(5)クランプ上端を右手でしっかり把持して、点滴筒側へ、無理やりスライドさせる。この時、点滴チューブはほとんど「キシメン状」になるはずである。ここでクランプ内の回転車には指を触れないようにすることがポイントである。
(6)点滴筒にまで液面が上昇したら、点滴筒を押してさらに液面を上昇させてやる。
(7)クランプゆっくりゆるめると、輸液ボトルから液体が補充されるとともに、「キシメン」状の点滴チューブはほとんど元の状態に戻る。
(8)三方活栓を元の位置にもどす。
以上で、完了である。
【クランプミルキング法の長所】
1.シリンジや酒精綿、ボールペンさえ要らない。何も必要ない。
2.輸液ボトルを触る必要がない。
3.点滴チューブ内に血液が逆流することがない。
4.液面が点滴筒からかなり遠くても実行できる。
短所は、点滴セットのメーカーがけっして推奨はしないということだけだ。
最初、やり始めるときは、点滴チューブが切れてしまうんじゃないかとか、考えてしまうのだが、かれこれ、当院で私個人だけでも 1000 回近くは行なっている計算になり、おそらく看護スタッフや同僚医師を含めると 1 万回近く行なっているのではないかと思うのだが、これまでのところ点滴チューブが切れたという経験もうわさも一度も聞いたことがない。
「ものは試し!」というじゃありませんか。是非、一度お試しあれ!
ちなみに、麻酔科医である私は、この方法を発見する以前から、なんとか点滴筒よりも液面が下にならないような工夫はできないものだろうかと考えていた。「点滴筒内にフロートを浮かべておいて、液面が低下したら、自動的に停止させることができないだろうか?」と特殊な点滴筒を自作してみたりもした。
ある日、点滴チューブを簡単にミルキングできる道具の自作を試みていたとき、なかなかうまくできずに半ば諦めかけていたとき、目の前にあるクランプが格好のミルキング・デバイスになることを発見したのである。
クランプは本来、点滴の速度を調節するためのものであり、閉めた状態で移動させることなどは想定されていないが、それを無理やり移動させることで、ミルキング・デバイスとしても利用できるということに気付いたのである。
この記事へのコメント
看護師ですがいつも困ってて・・
手技の動画があれば見たいです