CICV の恐怖体験
あれは金曜日の夜だった。待機でさえなければ「花金」、いちばん羽を伸ばせる時間だ。あいにく、外科のイレウスの急患ということで私は病院から呼び出された。「サクッと片づけてしまってゆっくりしよう。」と思いつつ病院に駆けつけた。
手術室看護師:「こっちはもう準備できたから、もう呼んでもいい?」
私:「いいよ~」
以前に胃切除既往のある50歳代の女性で、術前検査上は全身状態に特に問題はないようだ。イレウスということだが、NGチューブもまだ挿入されていなかった。どうも、患者が拒否したようだ。
「いまさら、NGチューブ入れたって、どうせ迅速導入するんだし、まっ、いいか。」と思った。
酸素マスクを当てる前に、「大きな口開けてみてください。歯はどれもしっかりしてますかね?」と開口と歯牙動揺の有無だけは確認した。
「やや上顎門歯が前方に位置しているが、これくらい開口できれば挿管はできるだろう。」と高を括った。
輪状軟骨を触って、看護師に「クラッシュで行くからね、ここお願い!」
患者さんに「ちょっと喉押さえますけど、負けんように頑張って大きな息しててくださいよ。眠たくなりますからね。」と言いながら、マスキュラックスとプロポフォールを一気に注入した。そして、じっと2分間待つつもりだった。
しかし、1分30秒くらいで酸素飽和度が100%から99%に落ちてきた。
「しまった、ちょっと焦りすぎたか。前酸素化が不十分だったかも・・・・」
2分まで待てないと思い、喉頭展開操作に入ろうとして右手で上顎を手前に引いたがびくともしない。
私:「あれっ! この人、首が後屈できない!」
外科医師:「あ、そうそう、この人去年、前方固定の手術してるみたいですよ!」
なるほど、見ると右前頚部にかすかに手術痕が見える。
「くそっ、しまった~~~~~~~~~!それって、先に教えといてよ~~~~。いや、いまさら泣き言を言っても始まらない。私が悪いんだ。ちゃんと既往歴を十分に聴取しなかった自分が悪いのだ。後悔先に立たず、後の祭りだ!!」(心の叫び)
とにかく後屈できなくっても、挿管するしかない。もう薬は入ってしまったんだし・・・。
ブレードを挿入して喉頭展開をしてみた。喉頭蓋は確認できるが、咽頭後壁にかなり接近していて翻展してくれない。喉頭圧迫もしてみるが、視野の改善はない。チューブの先端が喉頭蓋の下をぎりぎり通るか通らないかの Cormack分類 GradeⅢ である。盲目的にチューブを進めてみたが、バッグは硬い。食道だ。くそっ!
「よし、気を取り直して再挑戦だ。輪状軟骨圧迫を続けながら換気すれば大丈夫だ。」と自分に言いきかせた。
「圧迫続けといてね」と看護師に言いながら、マスクを当てて換気しようとした。ところが、いくら左手で下顎を挙上してバッグを揉んでも、一向に換気ができる気配がない。まったく胸が上がらないのである。
「くそっ、換気がうまくできない・・・」
酸素飽和度が、96→95・・・・と落ちていく。
頚部圧迫のせいだろうか? 嘔吐・誤嚥の危険性はあるが、仕方がないので、看護師に「ちょっと、頚部の圧迫を止めてみてくれる?」と言って、圧迫を解除してみたが、やはり換気不能である。
「あれ!!やっぱり換気ができないよ。」たぶん、私の顔は引きつっていたに違いない。
ゲ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!! これが、あの噂の・・・シー・アイ・シー・ブイ状態。
飽和度はさらに94→93・・・・・と落ちていく。
90を切った時に、「もう後がない。」と思い決心した。
外科医師に「もう一回トライしてみますけど、入らなかったら、外科的気道確保をお願いします。」とお願いした。
そして、もう一度喉頭展開してみた。しかし、やはり先程とまったく景色は変わらない。
「今、この段階になって何ができるだろうか? 時間外の急患でなければ、同僚が駆けつけてきてくれて、手を変えることも、さっさとラリンジアルマスクを準備してくれたりしたかもしれないが・・・。あ~~~~、神様!助けてください。」と祈りながら、喉頭蓋の下面に沿わせてチューブを進めた。
「頼む!!入ってくれ。」
酸素飽和度は80台前半になっていた。バッグを揉んでみた。今度は先程よりも軽い。そして胸が上がった。しかし、飽和度はさらに低下して70台になった。しばらくして飽和度の値が上向きに転じていった。声門の下端さえも見えなかったが、何とか気管に留置できたようだ。
2つの最悪の事態「輪状甲状膜切開」と「誤嚥性肺炎」のどちらも回避できた。しかし、上顎門歯4本が折れていた。
私:「先生、何とか入ったようです。でも歯が取れちゃいました。すみません。」と主治医の外科T医師に謝った。
T医師:「まあ、命には代えられませんよ~。よかった、よかった。歯は何とかしますから。」と労ってくれた。
・緊急手術の時は、いつもよりも入念に既往歴を聴取すること。
・NGチューブを入れて減圧できるのなら、少々患者が抵抗しても減圧しておくこと。
・開口、歯牙動揺、頚部後屈は最低確認すること。
・前酸素化は十分に行なうこと。
・外科的気道確保用具は手近に常備すること。
「後悔先に立たず」、「明日は我が身」
ちなみに、外科医2人と私の3人は、「劇症アナフィラキシー」を経験した時と同じメンツだった。
手術室看護師:「こっちはもう準備できたから、もう呼んでもいい?」
私:「いいよ~」
以前に胃切除既往のある50歳代の女性で、術前検査上は全身状態に特に問題はないようだ。イレウスということだが、NGチューブもまだ挿入されていなかった。どうも、患者が拒否したようだ。
「いまさら、NGチューブ入れたって、どうせ迅速導入するんだし、まっ、いいか。」と思った。
酸素マスクを当てる前に、「大きな口開けてみてください。歯はどれもしっかりしてますかね?」と開口と歯牙動揺の有無だけは確認した。
「やや上顎門歯が前方に位置しているが、これくらい開口できれば挿管はできるだろう。」と高を括った。
輪状軟骨を触って、看護師に「クラッシュで行くからね、ここお願い!」
患者さんに「ちょっと喉押さえますけど、負けんように頑張って大きな息しててくださいよ。眠たくなりますからね。」と言いながら、マスキュラックスとプロポフォールを一気に注入した。そして、じっと2分間待つつもりだった。
しかし、1分30秒くらいで酸素飽和度が100%から99%に落ちてきた。
「しまった、ちょっと焦りすぎたか。前酸素化が不十分だったかも・・・・」
2分まで待てないと思い、喉頭展開操作に入ろうとして右手で上顎を手前に引いたがびくともしない。
私:「あれっ! この人、首が後屈できない!」
外科医師:「あ、そうそう、この人去年、前方固定の手術してるみたいですよ!」
なるほど、見ると右前頚部にかすかに手術痕が見える。
「くそっ、しまった~~~~~~~~~!それって、先に教えといてよ~~~~。いや、いまさら泣き言を言っても始まらない。私が悪いんだ。ちゃんと既往歴を十分に聴取しなかった自分が悪いのだ。後悔先に立たず、後の祭りだ!!」(心の叫び)
とにかく後屈できなくっても、挿管するしかない。もう薬は入ってしまったんだし・・・。
ブレードを挿入して喉頭展開をしてみた。喉頭蓋は確認できるが、咽頭後壁にかなり接近していて翻展してくれない。喉頭圧迫もしてみるが、視野の改善はない。チューブの先端が喉頭蓋の下をぎりぎり通るか通らないかの Cormack分類 GradeⅢ である。盲目的にチューブを進めてみたが、バッグは硬い。食道だ。くそっ!
「よし、気を取り直して再挑戦だ。輪状軟骨圧迫を続けながら換気すれば大丈夫だ。」と自分に言いきかせた。
「圧迫続けといてね」と看護師に言いながら、マスクを当てて換気しようとした。ところが、いくら左手で下顎を挙上してバッグを揉んでも、一向に換気ができる気配がない。まったく胸が上がらないのである。
「くそっ、換気がうまくできない・・・」
酸素飽和度が、96→95・・・・と落ちていく。
頚部圧迫のせいだろうか? 嘔吐・誤嚥の危険性はあるが、仕方がないので、看護師に「ちょっと、頚部の圧迫を止めてみてくれる?」と言って、圧迫を解除してみたが、やはり換気不能である。
「あれ!!やっぱり換気ができないよ。」たぶん、私の顔は引きつっていたに違いない。
ゲ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!! これが、あの噂の・・・シー・アイ・シー・ブイ状態。
飽和度はさらに94→93・・・・・と落ちていく。
90を切った時に、「もう後がない。」と思い決心した。
外科医師に「もう一回トライしてみますけど、入らなかったら、外科的気道確保をお願いします。」とお願いした。
そして、もう一度喉頭展開してみた。しかし、やはり先程とまったく景色は変わらない。
「今、この段階になって何ができるだろうか? 時間外の急患でなければ、同僚が駆けつけてきてくれて、手を変えることも、さっさとラリンジアルマスクを準備してくれたりしたかもしれないが・・・。あ~~~~、神様!助けてください。」と祈りながら、喉頭蓋の下面に沿わせてチューブを進めた。
「頼む!!入ってくれ。」
酸素飽和度は80台前半になっていた。バッグを揉んでみた。今度は先程よりも軽い。そして胸が上がった。しかし、飽和度はさらに低下して70台になった。しばらくして飽和度の値が上向きに転じていった。声門の下端さえも見えなかったが、何とか気管に留置できたようだ。
2つの最悪の事態「輪状甲状膜切開」と「誤嚥性肺炎」のどちらも回避できた。しかし、上顎門歯4本が折れていた。
私:「先生、何とか入ったようです。でも歯が取れちゃいました。すみません。」と主治医の外科T医師に謝った。
T医師:「まあ、命には代えられませんよ~。よかった、よかった。歯は何とかしますから。」と労ってくれた。
・緊急手術の時は、いつもよりも入念に既往歴を聴取すること。
・NGチューブを入れて減圧できるのなら、少々患者が抵抗しても減圧しておくこと。
・開口、歯牙動揺、頚部後屈は最低確認すること。
・前酸素化は十分に行なうこと。
・外科的気道確保用具は手近に常備すること。
「後悔先に立たず」、「明日は我が身」
ちなみに、外科医2人と私の3人は、「劇症アナフィラキシー」を経験した時と同じメンツだった。
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