麻酔科医の匙加減:N係数

以下の文章は、2年ちょっと前に日本麻酔科学会ニューズレターに掲載された文章の引用である。
 「キリンは高血圧である。」という話がある。心臓から2メートルも上方に位置する脳に血液を届けなくてはいけないのだから、生理学的に考えれば尤もなことである。しかし、その血圧はキリンにとっては正常なわけである。人間にとっても個々人にとっての本来あるべき正常血圧というのがあるはずだ。にもかかわらずWHOも学会も、「収縮期血圧が140mmHg以上、拡張期血圧が90mmHg以上の両方、またはどちらか一方を満たすとき」を高血圧と定義している。2メートルを越す巨人も、140cmの小柄の女性も、一律に(!)である。おかしいでしょ!! せめて身長を考慮して、血圧を水柱(cmH2O)表現したときに、「収縮期血圧が身長の1.2倍以上を高血圧とする。」くらいの匙加減があってよいのではないだろうか。

 静脈麻酔薬の使い方もしかりである。麻酔薬を投与したときの効果は、体重だけでなくおおいに年齢にも依存する。にもかかわらず体重だけを考慮したパーキロ○○mgで、麻酔薬を投与してはいないだろうか。前投薬の量、麻酔導入に必要な鎮静剤の量、硬膜外に持続投与するフェンタニルの量、いずれも体重だけでなく年齢も十分に考慮しなくてはならない。しかし、どう考慮するのか? 私は、その匙加減を「体重÷年齢」で行っている。50kg・50歳の患者さんに投与する量をDとすると、60kg・60歳、70kg・70歳の患者さんにも同量Dを投与する。40kg・80歳の患者さんには、D×40÷80=0.5D、つまり半量を投与するのである。肝機能など考慮するべき因子は他にも数多くあるだろう。しかし、我々が多く遭遇する40歳以上の手術を要する患者に限れば、経験上かなり良い匙加減となる。当院の麻酔科の上司は「体重÷年齢」を「N係数」と名付けてくれた。「N係数」をお試しあれ!


<例1>:麻酔導入の場合
通常、50kg、50歳の成人には、プロポフォール100mg、フェンタニル50μg、ロクロニウム30mgを使用しているとすれば、40kg、80歳の老人では、N係数=体重÷年齢=40÷80=0.5 であるので、
プロポフォール=100×0.5=50mg、フェンタニル=50×0.5=25μg、
ロクロニウムはパーキロで計算して、40×0.6=24mg を使用して麻酔導入を行なう。

<例2>:術後の硬膜外PCAに併用するフェンタニルの量
通常、50kg、50歳の成人で術後の硬膜外PCAに併用するフェンタニルの量を500μg(5A=10ml)としている場合、
70kg、70歳の患者さんでは、N係数=体重÷年齢=70÷70=1であるので、同量の500μg を使用する。

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