内頚静脈穿刺のコツ:絶対当たる!?
麻酔科医にとって内頚静脈穿刺は必須の手技である。
CVラインを確保する部位としては、他に鎖骨下静脈も存在する。しかし、気道確保を生業とする麻酔科医にとっては、鎖骨下静脈よりも解剖学的に気道に近く、麻酔管理中に急にCVラインが必要になった時も一番アクセスしやすい場所である。
また気管挿管後に人工呼吸を開始する立場としては、合併症としての気胸の可能性が低い点でも内頚静脈に軍配が上がる。
内頚静脈穿刺法としては、一般に3種類のアプローチがあるとされている。胸鎖乳突筋(SCM)と穿刺部位との関係から、① SCM内側アプローチ、② SCM外側アプローチ、③ SCM三角アプローチに分類される。
① SCM内側アプローチ:SCMの内側から同側乳頭に針先を向けて刺入する
② SCM外側アプローチ:SCMの外側から胸骨上窩に針先を向けて刺入する
③ SCM三角アプローチ:SCMの胸骨枝と鎖骨枝、および鎖骨で囲まれた三角形の頭側の頂点から同側乳頭に向けて刺入する。
この3つのアプローチの中で、③のアプローチは少し刺入点が尾側になる分、肺を穿刺して気胸をきたす可能性が高くなる。また②の外側アプローチは、針の向きが総頚動脈の方向に向くのであまりやりたくない。ということで、通常は①の内側アプローチを行っていることが多いのではないだろうか。
以下に、この「SCM内側アプローチによる右内頚静脈の穿刺法」について記す。
穿刺部位を決めるための、体表上の目標となる解剖学的部位(メルクマール)は、① 胸骨上窩 ② 胸鎖乳突筋 ③ 総頚動脈 の3つである。
患者の頭位は少し左側に向ける(正中から10~30度程度)。あまり横に向けすぎると、総頸動脈と内頚静脈、胸鎖乳突筋の位置関係が捻じれてくるのでお薦めしない。
まずは、胸骨上窩をしっかりと左手親指で確認してから、そこに左手の小指を位置させる。そして、その小指を胸骨上窩に置いたまま、少し小指と環指を開くようにしながら、示指と中指で総頚動脈を触れるように位置させると、その2本の指は甲状軟骨の右隣くらいになる。
胸鎖乳突筋の内側で左手の示指と中指で総頚動脈を触れ、総頸動脈の外縁から5~10mm外側で穿刺する。この時、必ず針先を体軸平行ではなく同側の乳頭方向に向くように15~30度外側に向ける。そうすると穿刺針は必然的に胸鎖乳突筋の裏側に進むことになる。
ただし、首の短い人では、顎が邪魔になって、ついつい針先が体軸平行か、場合によっては胸骨上窩の方向に向いてしまいそうなことがある。しかし、これは絶対に避けなければならない。動脈を穿刺する可能性が高くなる。
解剖学的に重要な点は、【内頚静脈は胸鎖乳突筋の裏側に存在する】ということである。したがって、胸鎖乳突筋の裏側に針を進めるように心がける。
総頚動脈も内頚静脈も体軸平行に走行していることには間違いはなく個体差はない。個体差があるのは、その相対的な位置関係である。
総頚動脈と内頸静脈の位置関係は、
① 部分的に重なりがある場合(Aパターン)、② 全く重なりがない場合(Bパターン)、③ 前後方向に完全に重なっている場合(Cパターン)がある。
ただ、この図を見るときに注意しないといけない点は、右頸部の皮膚に当てたエコー・プローベの所見であるので、「本当の位置関係は図を右に45度程度傾けた状態」であるということだ。
図は以下の文献から拝借して修正を加えた。
日本臨床麻酔学会誌 「超音波診断装置を用いた内頸静脈の左右差についての検討」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/25/4/25_4_331/_pdf
Aパターンが圧倒的に多いので、総頸動脈のすぐ右隣で穿刺すればほとんど場合穿刺に成功するはずであるが、図の青い矢印に見るように、BパターンやCパターンのような位置関係の場合には、内頚静脈の内側や外側を穿刺してしまう可能性がある。つまり一定の確率で内頚静脈に当たらないという結果になる。
ところが、上に述べたように、同側乳頭を目標にして胸鎖乳突筋の裏側に針を進めるようにすると、図の赤い矢印で示したように、A~Cのどのパターンであっても、針を進めていくうちに深さは違えど、内頚静脈にほとんど必中することになる。
CVラインを確保する部位としては、他に鎖骨下静脈も存在する。しかし、気道確保を生業とする麻酔科医にとっては、鎖骨下静脈よりも解剖学的に気道に近く、麻酔管理中に急にCVラインが必要になった時も一番アクセスしやすい場所である。
また気管挿管後に人工呼吸を開始する立場としては、合併症としての気胸の可能性が低い点でも内頚静脈に軍配が上がる。
内頚静脈穿刺法としては、一般に3種類のアプローチがあるとされている。胸鎖乳突筋(SCM)と穿刺部位との関係から、① SCM内側アプローチ、② SCM外側アプローチ、③ SCM三角アプローチに分類される。
① SCM内側アプローチ:SCMの内側から同側乳頭に針先を向けて刺入する
② SCM外側アプローチ:SCMの外側から胸骨上窩に針先を向けて刺入する
③ SCM三角アプローチ:SCMの胸骨枝と鎖骨枝、および鎖骨で囲まれた三角形の頭側の頂点から同側乳頭に向けて刺入する。
この3つのアプローチの中で、③のアプローチは少し刺入点が尾側になる分、肺を穿刺して気胸をきたす可能性が高くなる。また②の外側アプローチは、針の向きが総頚動脈の方向に向くのであまりやりたくない。ということで、通常は①の内側アプローチを行っていることが多いのではないだろうか。
以下に、この「SCM内側アプローチによる右内頚静脈の穿刺法」について記す。
穿刺部位を決めるための、体表上の目標となる解剖学的部位(メルクマール)は、① 胸骨上窩 ② 胸鎖乳突筋 ③ 総頚動脈 の3つである。
患者の頭位は少し左側に向ける(正中から10~30度程度)。あまり横に向けすぎると、総頸動脈と内頚静脈、胸鎖乳突筋の位置関係が捻じれてくるのでお薦めしない。
まずは、胸骨上窩をしっかりと左手親指で確認してから、そこに左手の小指を位置させる。そして、その小指を胸骨上窩に置いたまま、少し小指と環指を開くようにしながら、示指と中指で総頚動脈を触れるように位置させると、その2本の指は甲状軟骨の右隣くらいになる。
胸鎖乳突筋の内側で左手の示指と中指で総頚動脈を触れ、総頸動脈の外縁から5~10mm外側で穿刺する。この時、必ず針先を体軸平行ではなく同側の乳頭方向に向くように15~30度外側に向ける。そうすると穿刺針は必然的に胸鎖乳突筋の裏側に進むことになる。
ただし、首の短い人では、顎が邪魔になって、ついつい針先が体軸平行か、場合によっては胸骨上窩の方向に向いてしまいそうなことがある。しかし、これは絶対に避けなければならない。動脈を穿刺する可能性が高くなる。
解剖学的に重要な点は、【内頚静脈は胸鎖乳突筋の裏側に存在する】ということである。したがって、胸鎖乳突筋の裏側に針を進めるように心がける。
総頚動脈も内頚静脈も体軸平行に走行していることには間違いはなく個体差はない。個体差があるのは、その相対的な位置関係である。
総頚動脈と内頸静脈の位置関係は、
① 部分的に重なりがある場合(Aパターン)、② 全く重なりがない場合(Bパターン)、③ 前後方向に完全に重なっている場合(Cパターン)がある。
ただ、この図を見るときに注意しないといけない点は、右頸部の皮膚に当てたエコー・プローベの所見であるので、「本当の位置関係は図を右に45度程度傾けた状態」であるということだ。
図は以下の文献から拝借して修正を加えた。
日本臨床麻酔学会誌 「超音波診断装置を用いた内頸静脈の左右差についての検討」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/25/4/25_4_331/_pdf
Aパターンが圧倒的に多いので、総頸動脈のすぐ右隣で穿刺すればほとんど場合穿刺に成功するはずであるが、図の青い矢印に見るように、BパターンやCパターンのような位置関係の場合には、内頚静脈の内側や外側を穿刺してしまう可能性がある。つまり一定の確率で内頚静脈に当たらないという結果になる。
ところが、上に述べたように、同側乳頭を目標にして胸鎖乳突筋の裏側に針を進めるようにすると、図の赤い矢印で示したように、A~Cのどのパターンであっても、針を進めていくうちに深さは違えど、内頚静脈にほとんど必中することになる。





この記事へのコメント
まずは、ご指摘ありがとうございます。
> 本文先頭から5つめのパラグラフ、②で「SCMの内側から」とあるのは「SCMの外側から」の間違いではないでしょうか。
確かに間違っております。修正いたしました。
通常、私が内頚静脈穿刺を行う甲状軟骨レベルでは、まだ筋腹自体が鎖骨枝と胸骨枝に分かれていないように思います。内頚静脈は、胸骨と鎖骨枝と胸骨枝で囲まれる三角を尾側に下って、鎖骨下静脈と合流していると思っています。また、甲状軟骨よりも頭側に行くと、内頚静脈は胸鎖乳突筋の内側に存在すると思っています。したがって強いて言えば、頭側では、胸骨枝の裏にあり、尾側では、胸骨枝と鎖骨枝の中間と言えると思います。
次に、SRHAD-KNIGHT先生にとっての第一選択とする穿刺点は、まだ胸骨枝と鎖骨枝に分かれる前の一本となっている胸鎖乳突筋の内側縁で、高さとしては甲状軟骨あたりの高さ、穿刺の角度は同側の乳頭向け(そうすると必然的にだいたい10~30度くらい外側に向き)、胸鎖乳突筋の裏を這わせる感じで針を進ませる、というふうに考えてよろしいでしょうか。
私のこれまで抱いていたイメージでは、内頸静脈は、胸骨枝と鎖骨枝と鎖骨の三角形の、鎖骨枝で作られる一辺に位置に、鎖骨枝の内側縁の真下あたりに沿って走行しているというイメージを持っていました。しかし、先生のお話ですと、もう少し、三角形の「辺に沿って」ではなく、「面の真ん中」にあるという感じでしょうか。もちろん症例ごとに首の長さや太さなど個人差がありますし、エコーで確認すれば確実という話なのでしょうから、確率論にはなりますが・・・・・
ご指摘の通り、胸骨→鎖骨です。すみません。
また、書いていただいたとおり「第一選択とする穿刺点は、まだ胸骨枝と鎖骨枝に分かれる前の一本となっている胸鎖乳突筋の内側縁で、高さとしては甲状軟骨あたりの高さ、穿刺の角度は同側の乳頭向け(そうすると必然的にだいたい10~30度くらい外側に向き)、胸鎖乳突筋の裏を這わせる感じで針を進ませる」と考えています。
また、私のイメージとしては、胸骨枝と鎖骨枝と鎖骨の三角形が、内頚静脈の上に乗っていると感じですね。
私は、③の SCM三角アプローチにて、ずっと入れてきました。①の SCM内側アプローチは、今までしたことがありませんでしたが、このアプローチも勉強したいと思います。甲状軟骨あたりの高さで胸鎖乳突筋の内側縁よりも内頚動脈(総頸動脈)の方がより外側にある場合には、どうしたら良いでしょうか?(内頸動脈、総頚動脈の拍動の方が胸鎖乳突筋の内側縁より外側で触れて胸鎖乳突筋の裏あたりで拍動を触れる人がいます)この場合、ためし針は動脈に当たってしまいそうですが、どうしたらよいのか教えてくだされば助かります。どうぞよろしくお願いします。
全ての症例でまったく同じアプローチに固執する必要はないと思います。私は原則的に SCM 内側アプローチをやっていて、ほとんどおっしゃられるような症例に遭遇したことはないのですが、そういった稀な症例では、三角アプローチや、SCM外側アプローチ、あるいはエコーガイド下穿刺を行うのが良いのではないでしょうか。
胸鎖乳突筋の内側に頸動脈が触れる症例(それがほとんどと思いますが)では、穿刺針を同側乳頭に向けて、胸鎖乳突筋の裏側に穿刺すれば頚動脈を穿刺することはまずありません。
お忙しいところ何度も質問してすみませんが、教えてくだされば、さいわいです。
おっしゃる通り、刺入点は、三角アプローチよりも数センチ頭側になります。皮膚に対する角度は、患者さんの首の長さ、刺入点(高さ)と患者さんの下顎との関係によって変わってきますが、患者さんの皮膚面に対しては、45~60度くらいの刺入角度かと思いもます。針先を胸鎖乳突筋の裏側に位置させるように穿刺します。深さは通常、2.5センチ以内で穿刺できます。それ以上は進めないようにしています。
1:当院は麻酔にリドカインではなくプロカインを使っています。プロカインを使うと、針が静脈に入っても逆血しにくいということは考えられますか?
2:ためし針は、針の長さ25ミリのブルー針を使っていますが、これでよいですか?
3:ためし針は、なるべくゆっくり入れますか?それとも、速く、刺しますか?
4:内頸静脈が、ためし針に押されて下に沈み込み、針が前壁と後壁をいっきに貫通するケースでは、吸引しながら針を抜いても、逆血が、うまくいかないと思うのですが、どう思われますか?
5:先生は、いくら針の刺入点や角度、方向を変えても、ためし針で逆血が得
られないケースがありましたか?また、内頸アプローチの成功率は、麻酔科領域の先生方では、どのくらいになりますか?
6:一般的に、ためし針での逆血がうまくいかない場合、何回までで、トライを諦めますか?
>本穿刺の前に、静脈麻酔をかねた、ためし針で静脈の位置を確認します・・・
局所麻酔をかねて・・・ですね。
>ためし針での逆血(静脈に針が入った証)が、来ないことが多くて本穿刺に至らないことが多くて困っています。
そうですね。私も昔、そう悩んだことがありました。試し針は、細いが故に穿刺感が全くなく、逆流がある深さでも、細いが故に明確な逆流が確認しづらいです。なので、私は個人的には、ほとんど試し針をしたことがありません。エコーが使用できない状況では、今でも「試し針」をする価値はあるのでしょうが、私は、エコーを利用できない時は、左手で動脈拍動を確認しながら拍動の右隣を右手でいきなり本穿刺針で穿刺して、(太い針で)明確な逆流を確認しています。エコーが利用できる状況でも、エコーでプレスキャンだけして、動脈と内頚静脈の位置関係だけを頭に入れて、エコーガイド下ではなくて穿刺しています。
>1:当院は麻酔にリドカインではなくプロカインを使っています。プロカインを使うと、針が静脈に入っても逆血しにくいということは考えられますか?
プロカインが血液を凝固しやすくするとことはないと思いますので、考えにくいと思います。
>2:ためし針は、針の長さ25ミリのブルー針を使っていますが、これでよいですか?
私の周辺では、ここ十年くらいエコーが利用しやすい状況では、ほとんど試し針を使用しているのは見かけたことがないですが、標準的にはそれ(長さ25ミリのブルー針)でよい思います。一つには、これ以上長い針になると、穿刺してはいけないものを穿刺してしまう可能性が高くなる(内頚静脈穿刺は、よほどの肥満患者でない限り、針を25ミリ以上深く差してはいけない)し、これ以上太い針になると「試し」にならないからです。
>3:ためし針は、なるべくゆっくり入れますか?それとも、速く、刺しますか?
試し針は、細くて鋭いのでゆっくり刺しても大丈夫だとは思いますが、できれば静脈壁を確実に穿破するために、小刻みに3~5ミリくらいずつ素早く深くしていくのが良いと思います。これは細い針よりも太い針を使用した場合には、針の組織に対する抵抗がより大きいため、針を前方へ進めようとする力によって、静脈前壁自体を圧排してしまって、前壁を穿刺できた途端に背側の後壁まで穿破ししまう可能性が高くなるからです。
>4:内頸静脈が、ためし針に押されて下に沈み込み、針が前壁と後壁をいっきに貫通するケースでは、吸引しながら針を抜いても、逆血が、うまくいかないと思うのですが、どう思われますか?
前壁と後壁が一気に穿破されてしまっている場合、針をゆっくりと後退させると、針の先端が後壁から抜けた瞬間に十分な逆血が確認できます。うまくいくと思います。
>5:先生は、いくら針の刺入点や角度、方向を変えても、ためし針で逆血が得られないケースがありましたか?
私の場合、本針でですが、「いくら針の刺入点や角度、方向を変えても、当たらなかった」というケースは少ないですが、数パーセントの確率で確実に存在します。もともと内頚静脈径が1センチ以下しかない場合とか、通常存在する場所からは遠く離れた所に存在する場合です。「いくら針の刺入点や角度、方向を変えても、ためし針で逆血が得られない」場合は、現代的にはエコーを当ててみて、大きな静脈が確実に存在することを視覚的に確認することで、試し針ではなくていきなり本針で穿刺できます。
>また、内頸アプローチの成功率は、麻酔科領域の先生方では、どのくらいになりますか?
個人的には99パーセント、周辺でも90パーセント以上と思います。入らなかったことは極めて稀ですね。通常は滅茶苦茶太いですし、手術室という状況では、人工呼吸下にヘッドダウンして、PEEPかけてしっかり内頚静脈を太くしてから穿刺しますから。
>6:一般的に、ためし針での逆血がうまくいかない場合、何回までで、トライを諦めますか?
害の少ない「試し針」ですから、10回刺してだめなら、エコーを使うか、手を変えましょう。私はエコーのプレスキャンなしで、いきなり本針で、5回くらい穿刺して当たらないようなら、面倒でもエコーを利用するか、誰かに手を変えますね。
こちらこそ、お返事いただき、ありがとうございます。
慎重に、そして、時に大胆に、頑張ってください!