指交叉法を用いない気管挿管:両手開口+中指伸展法

当院でも救急救命士の気管挿管実習を指導しているが、彼らや研修医に指導している気管挿管法を以下に紹介する。

マッキントッシュ喉頭鏡を使用して気管挿管を行う場合、成功の2大ポイントは、
1.最大開口位を得ること
2.舌を左に十分避けること
である考えている。

この点から「指交叉法」は本当に適しているのかどうかを考えてみよう。
1.確実に最大開口位にできるか?→「No」である。
2.右の口角からブレードをうまく入れることができるか?→「No」である。
したがって、しばしば、舌を左に十分避けることが難しい

もとにかえって「指交叉法」は何をしているのか考えてみよう。まず、右手の母指と示指を交叉させて、口を開かせること(動的開口)と、次に開口状態を保持すること(静的開口)である。その後、ブレードを挿入して、さらに開口させて喉頭展開を行っていくことになる。

指交差法は、「動的開口」と「静的開口」の2つの操作を行っているということだ。しかし、「二兎を追うものは一兎を得ず!!」というではないか。前者の「動的開口」は必ずしも最大開口位を得られてはおらず、ブレードを挿入して展開していく過程で最大開口位にしている。さらに、「静的開口」時に、右手の親指が邪魔になってブレードを右口角から挿入できない! そのために、多くの初心者がブレードの右に舌が残ったまま喉頭展開をせざる得なくなっている。

そこで、この「動的開口」と「静的開口」を別の手技で行うことで、指交差法の欠点を克服しようというのである。
指交叉法の「動的開口」に代わる方法として「両手開口法」を用い、さらに「静的開口」の変わる方法として、「中指伸展法」を用いるのである。

「両手開口法」は、その名の通り、開口させるのに右手だけでなく両手を使うのである。
1.右手の拇指と示指を使って上顎を保持する。示指だけでも構わない。
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2.左手の母指と示指・中指で下顎を挟む。
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3.下顎を少し引き上げてから尾側に移動させて開口させる。少し、「受け顎」にするのポイントである。こうすることで最大開口位が得られやすくなる。
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「中指伸展法」は、右手の示指は上顎の右寄りに掛け、母指は下顎に掛けずに、手掌で患者の右頬部をなでるようにして、中指を下顎の犬歯の付け根辺りの皮膚に当てて開口状態を保持する。これがちょっと難しいが、しばらく訓練するとできるようになる。
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マッキントッシュ・ブレードを右口角から難なく挿入でき、舌もきれいに左に避けることができる。
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■指交差法 vs 中指伸展法
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中指伸展法の方が、はるかに視野が良好であることが分かる。


■両手開口法+中指伸展法の利点
・最初から確実に最大開口位が得られる → 口唇の巻き込みが少ない
・右の口角が空いているので、ブレードを確実に舌の右縁に沿って挿入できる → 舌を十分に左に避けることができる。
これで、挿管成功の2大ポイントのクリアーできることになる。

■両手開口法+中指伸展法の欠点
・筋弛緩が十分効いていない場合や、口の硬い患者では難しい。
・挿管シミュレータでも、練習が難しいことがある。

指交叉法に代わる「両手開口+中指伸展法」を紹介した。手技がワン・ステップ増えるが・・・、最大開口位が得やすく、舌も左に避けやすい。指交叉法の習得が困難な場合に試みられてよい方法である。まだ少数派だが将来はメジャーになるかも! ぜひ試してみてほしい。

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この記事へのコメント

ろどりげす
2015年01月13日 11:22
キャリア30年以上の麻酔科医です。卒後4年目に上司から左手開口非クロスフィンガーを伝授されました。以後他の麻酔科医がクロスフィンガーで挿管するのを見るたびに窮屈そうにしか見えません。彼らがなぜ最大開口せずに挿管できるのかいまだにナゾです。
panpo
2015年01月15日 10:40
キャリア数年の麻酔科医です。
中指伸展法は斬新なアイディアですね。訓練してみたいと思います。

クロスフィンガーによる動的開口で最大開口位を得るのは難しい場合がありますので、やはり両手開口は必要だと思います。
私が行っているのは、上記方法の3までは同じで、その後右臼歯にクロスフィンガーを行い最大開口位を維持する方法です。
クロスフィンガーで静的開口のみを行っています。
右母指と示指は奥のほうに位置しますのでブレード挿入の邪魔になることはあまりない印象で、研修医にも教えやすいと今のところ感じています。

ろどりげす先生の「左手開口非クロスフィンガー」というのがどのような方法なのか、興味があります。

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  • 「左手開口非クロスフィンガー」法とは!?

    Excerpt: かなり以前にアップした記事「指交叉法を用いない気管挿管:両手開口+中指伸展法」に対するコメントを「ろどりげす」さんという方からいただきました。(以下、そのコメントです。) Weblog: 麻酔科勤務医のお勉強日記 racked: 2015-01-14 20:08