至適?私的?輸液と輸血のストラテジー

教科書や各種のガイドラインを見ていると、「理論は分かるが、実際の臨床では不可能でしょう!!」ということが多々ある。その一つが、輸液と輸血である。
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輸血のガイドラインでは、「循環血液量の15~20%の出血が起こった場合には,細胞外液量の補充のために細胞外液補充液(乳酸リンゲル液,酢酸リンゲル液など)を出血量の2~3倍投与する。」とか、「循環血液量の20~50%の出血量に対しては,膠質浸透圧を維持するために,人工膠質液(ヒドロキシエチルデンプン(HES),デキストランなど)を投与する。」などと書かれているが、実際の臨床をやっている人たちが書いたものとは到底思えない。

まず、最初の「循環血液量の15~20%の出血が起こった場合には,細胞外液量の補充のために細胞外液補充液(乳酸リンゲル液,酢酸リンゲル液など)を出血量の2~3倍投与する。」であるが、生理学的に考えて「出血量の2~3倍」では到底足りない。なぜなら血管内液と組織間液の分布が1:3であるためである。この文章を書いた人は生理学が理解できているのだろうか? 1000mlの出血に対して、細胞外液型輸液剤を4000ml投与しないと循環血液量を維持することはできないのである。

しかし、通常確保している留置カテーテルからは、到底そんなスピードでは落とせない。それに、500ml製剤を8本も落とせば、体温低下も起こってくる。したがって、すでにこの段階から加温器を使用しなくては体温低下は防げない。

次に、「循環血液量の20~50%の出血量に対しては人工膠質液を投与する。」についても、通常の成人を想定すると、次の1500mlの出血を人工膠質液で補うことになるが、そのためには500mlの人工膠質液3本が必要になる。しかし、「なお,人工膠質液を1,000mL以上必要とする場合にも等張アルブミン製剤の使用を考慮する。」とガイドラインには記載されており、これは矛盾する内容である。

「ガイドライン」と謳いながら、生理学的に正しくない記載があり、自己矛盾する記載がある。それが輸血のガイドラインだ。

結局、細胞外液型輸液剤と人工膠質液だけで、循環血液量の50%の出血を補うことは通常不可能である。

輸液輸血の優先順位は、
1.ボリューム(循環血液量)の維持
2.酸素運搬能の保持
3、凝固能の保持
4.血小板数の維持

私の、通常の輸液輸血の方法は、以下のようである。

細胞外液型輸液剤は、麻酔開始時は500ml/時程度で落とし、術前脱水が補正できた時点で、200ml/時程度に減速している。この速度は、手術終了までよほど大量出血して投与するものがなくならない限り、通常変わらない。

出血が1000ml程度までなら、ヘスパンダーやサリンヘスといった人工膠質液を1000mlまで、出血量と等量使用して出血を補う。3本以上使用すると、凝固障害を呈することが多いので、通常は2本以下にとどめる。大量出血中で、投与する血液製剤が確保できない場合にはこの限りではない。

しかし、もしも硬膜外麻酔や体位の影響で出血の有無とは無関係に人工膠質液をすでに使用してしまっている場合は、次にアルブミン液を使用する。

アルブミン液(250ml)は、通常保険診療上は、4本1000mlまでは削られずに使用可能である。ということで、通常2000mlまでの出血は、人工膠質液1000mlとアルブミン液1000mlでボリューム的には補うことが可能である。

このようにして出血量と等量の膠質液を使用しながらボリュームを補っていく過程で、術前貧血の程度や、患者さんの体のサイズ、脳梗塞や狭心症、心筋梗塞といった虚血性疾患の有無によって、その患者さんごとの許容最低ヘモグロビン値(虚血性疾患でHb=10、それ以外Hb=7を目標に)を維持できるように、赤血球製剤(LR)を併用していく。

「凝固因子は30%以下に低下しないと凝固系の延長は起こらない。」などとガイドラインには書いてあるが、実際に2000mlの出血を人工膠質液とアルブミン液で等量補充すると、もう血液はかなりさらさらになってきて、FFPの投与が必要となってくることが多い。ときどき凝固系の検査を行って、PT>50%程度を維持できるように、FFPを追加していく。

そしてさらに出血量が多くなってくれば、人工膠質液も再登場させながら、血液製剤(赤血球製剤+FFP)と人工膠質液を2:1くらいの比で使用ながら(血液製剤を人工膠質液で希釈しながら)出血量を等量補充していく。

以上のような輸液輸血のストラテジーの場合、イン・アウトのバランスは、細胞外液型輸液剤や尿量はとりあえず問題外とする。

出血量>人工膠質液+アルブミン液+輸血(赤血球製剤+FFP)ならば、足りないと判断する。

ガイドラインよりは、人工膠質液の使用も、アルブミン液の使用も、FFPの使用もずっと早い段階で行っている。

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