知らなきゃ損!! 超簡単、 気管チューブの最適カフ圧設定法

 昨年、本ブログ開設して間もなく、ちょうど去年の今頃、長年を費やして考案・検証した輸液ラインの簡単なエア抜き法「クランプ・ミルキング法」を紹介した。今回は、それに匹敵するアイデア、簡便な気管チューブの最適なカフ圧設定法、「10mL シリンジ法」を紹介する。

 現在、当院麻酔科に資格取得直後の救急救命士 2 名が、現場出動前の病院実習中である。彼らが言うには、救急救命士らは、CPA の患者に対して気管挿管後、一律にカフに 10 mL のエアを注入してエアが漏れないようにすばやくシリンジをパイロット・バルーンからはずすようにと習ったという。

 確かに、彼らがケアする心マッサージ中の患者の場合は、かなり高い圧でないとカフ漏れを防げないために、そのように指導されているのかもしれない。しかし・・・・、 『気管チューブのカフのエア量は「量」で決まるのではなく、「圧」で決まるのだから、それはとっても変な話だ。』と話した。麻酔科医にとっては、しごく当たり前のことだ。

 ご存知のように、気管チューブのカフ圧は低すぎると、人工呼吸のたびにカフ漏れをきたし、口腔内分泌物の気管内への垂れ込みを許してしまい、また高すぎると気管粘膜の毛細管血流障害から粘膜の虚血をきたし、抜管後に粘膜浮腫を惹起したり、また過剰なカフ圧が長期にわたればびらんから潰瘍形成をきたしかねない。

 多くの文献で、カフ圧を適正に行うべきことが推奨されているし、適正なカフ圧を設定するのが麻酔科医としての役目でもある。しかし、中規模以上の病院では手術室の各部屋にカフ圧計が常備されているかもしれないが、アルバイトで訪れる小規模病院や数年前までの当院など貧乏な病院では、カフ圧計など存在しない病院も多いのではないだろうか。

 なにしろ、たかが「カフ圧計」が、2 万円以上するのだから、簡単に複数台購入するのは躊躇されるだろう。ましてや、救急車になど常備されているはずもない。パイロット・バルーンを単に手で触れて圧を確認するだけでは、通常は圧は過大になることがさまざまな臨床試験で報告されている。

 今回紹介する方法は、そんな状況でも、カフ圧計を用いずに最適なカフ圧を設定する方法である。

 通常、気管チューブのカフへのエアの注入には 10 mL のディスポ・シリンジを使用しているであろう。このシリンジ、特に当院で使用しているテルモ社製の 10mL ディスポ・シリンジは、カフ圧設定に最適である。

【1】気管チューブと呼吸回路をはずした状態で、気管チューブのパイロット・バルーンを左手で触れながら、「ややエア量が多いかな?」という程度のエアを右手で持った 10 mL シリンジでカフにエアを注入する。
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【2】注射器のプランジャ(内筒)から手を離して、10~15 秒間、プランジャが徐々に手前に戻ってくるのを待つ。
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【3】プランジャがもう動かないところまで戻ってきた時点で、シリンジを気管チューブのパイロット・バルーンのシリンジ接続部からはずす。
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 以上の超簡単な方法で、カフ圧はほぼ 25~35 cmH2O の圧に設定することができる。

 テルモの 10 mL ディスポ・シリンジのシリンジとプランジャの摩擦抵抗が、ちょうどカフ圧 25~35 cmH2O の圧と拮抗するのである。

 手近にカフ圧計があるのならば、本方法で設定したカフ圧をカフ圧計で確認、検証してみていただきたい。ただし、カフ圧計にある程度の長さのチューブが付属していれば、そのチューブ用量分だけ圧が逃げるために測定したカフ圧は若干低下して測定されるであろう。より厳密に測定したい場合には、カフ圧計の延長チューブをはずして、カフ圧計をパイロット・バルーンのシリンジ接続部に直接接続すればよいことを付記しておく。

 どうぞ、お試しあれ。

「メイヤーの法則」: 事態を複雑にするのは単純な作業だが、単純にするのは複雑な作業である。

「ヘラデの法則」: めんどうな仕事は怠け者に任せろ。簡単に終わらせる方法を見つけてくれる。

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