NGチューブ(経鼻胃管)がうまく入っていかない時の対処法

 全身麻酔下での NG チューブ の挿入はしばしば困難である。

 覚醒時に患者さんに飲み込んでもらう場合には、嚥下運動により咽頭筋が漏斗状に変形するからであろう、食道入口部でつかえて入らないということはほとんどないのだが、全身麻酔下で患者さんの嚥下運動がまったくない状態では、この食道入口部にうまく NG チューブの先端 が入ってくれず、非常に難渋することがある。

 一度、苦い経験をすると、患者さんには申し訳ないが、全身麻酔で眠ってもらう前に、「おえっ、おえっ」と苦しい思いをしてもらってでも、麻酔導入前に挿入しておきたくなるものだ。もちろん、フルストマックの場合には、嘔吐の危険性と天秤にかければ、それも致し方のないことである。

 しかし、嘔吐の危険性はないが、腹腔鏡手術などで胃が空気で膨満していると手術操作に支障になるからと言う理由で、 NG チューブの留置が必要な場合もある。麻酔導入時に十分気をつけて、胃に空気を送り込まなくても、患者自身が呑気していることもあり、全身麻酔導入後に留置せざる得ないことも多い。

 昔には、使い古した、あるいは使用しなくなった気管チューブを縦にハサミでスリットを入れて、その気管チューブを経鼻で食道挿管しておいて、その内腔に NG チューブ を通し、その後、気管チューブを抜去する、と言う方法を数回やったことがある。

 確かにこの方法は、盲目的に細い NG チューブを食道に誘導するよりは、気管チューブの方が太くて腰があるので確実に食道内に留置することが可能である。しかし、使い古した気管チューブや、捨ててもよい気管チューブがなければ、1 本気管チューブを無駄にしなくてはならない。また準備もいささか煩雑である。

 以下の方法は、先輩医師から教わった方法である。簡単に言えば、左手の示指と中指で、NG チューブの先端を食道入口部に誘導すると言う方法である。ここ 10 年以上は、NG チューブ挿入困難例のほぼ全例で、この方法で、少なくとも食道入口部は通過させることができている。

 患者の頭側に立っている麻酔科医は、少し患者頭部の左側に立ち位置を移動し、左手の示指と中指を、じゃんけんの時の「チョキ」をするようにして、掌側を患者の尾側に向けて、患者の口腔内に挿入する。もちろん、バイトブロックはいったん外しておく。

 右手で NG チューブを鼻孔から挿入して、チューブの先端が咽頭後壁に達し尾側に進んでいくのを、左手の示指と中指で確認する。チューブを 2 本の指で咽頭後壁に押し付けながら、少し患者の左側に先端が向くように誘導する。チューブの行き先を多少左右に振りながら、チューブの前進と後退を繰り返して、チューブがたわむことなく進んで行く場所を探索する。たわまずに進む場所があれば、そこが食道(か、時に気管)である。

 気管入口部(声門)と、食道入口部の位置関係は、ちょうど、右内頚静脈に CV ラインを確保する際に、エコーで確認した右内頚静脈と右総頚動脈の位置関係を想像すれば良い。気管チューブの位置の左後側に食道入口部は存在するはずである。

 この方法の利点は、自分の手以外には何も必要ないことである。咽頭後壁でチューブがたわんだり、トグロを巻きそうになった時は、すぐに左手で感じ取れるので、無駄にどんどん押し込む操作を繰り返すことはなく、結果的に口腔粘膜を損傷したりすることも回避できる。

 この方法は、十分な開口ができない患者さんでは難しい。また、患者さんに十分な筋弛緩を効かせておかないと、患者さんに手を噛まれることがある、という点に注意するべきである。また、時に、気管内に留置されることもある。この場合は、NG チューブの近位端に耳に近づければ、人工呼吸に一致してガスが噴出してくるのが感じ取れて、気管内留置になったことが確認できる。

 以上、「NG チューブの左手チョキ法」でした。慣れると、全身麻酔前に、患者さんに苦しい思いをさせなくても済むかも。

この記事へのコメント

まめ
2012年06月30日 11:26
私がNGチューブで苦労するのは食道入口じゃなくて、ジャンクションをこえた後口側に向かってはねてしまうことと、食道裂孔ヘルニアの人でジャンクションをこえきれないことですかね(食道入口は先生と同じくチョキでずっとやってますので、これで食道に入らなかったことはありません)。私のような悩みをお持ちで解決策をお持ちの方いませんか?

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