フェンタニルとブプレノルフィンの併用は有用である

 ブプレノルフィンは部分作動薬とか、拮抗性麻薬と呼ばれており、麻薬であるフェンタニルやモルヒネとの併用は基本的には避けられている。私自身も、昔はそうであった。しかし、よくよく考えてみるに、それは「なんとなく、よく分からないけど・・・、せっかく効いているのに拮抗しちゃうんじゃないかな、だから併用しないほうがいいんじゃないか。教科書にも確かそう書いてあるし。」という程度の理解だった。

 しかし、あえて併用してみると、何のことはない。通常は相加的に作用する。通常われわれが使用しているようなフェンタニル濃度(開心術時の大量フェンタニル麻酔を除く)では、μ 受容体はアゴニスト(つまりフェンタニル)によって完全に占拠されているわけではないので、その空いた受容体に部分アゴニスト(ブプレノルフィン)が結合するだけだからだ。

 今、述べたことをもう少し具体的に模式的に表現してみよう。

 μ 受容体を「□」で、フェンタニルを「●」で、ブプレノルフィンを「○」で表現するとしよう。
そして、受容体が 10 個存在し、受容体とフェンタニルが結合したときの鎮痛力価を 10、一方、受容体とブプレノルフィンが結合したときの鎮痛力価を 5 としよう(本当はもっと強いようだが・・・)。

10 個の受容体が完全にフェンタニルで占拠された場合の、合計の鎮痛力価は、

 10×10=100

となると仮定しよう。

【A:受容体がフェンタニルで完全占拠】

●●●●●●●●●●
□□□□□□□□□□

・鎮痛力価=10×10=100

【B:フェンタニルだけ少量~中等量使用している場合】

●●●●●
□□□□□□□□□□

・鎮痛力価=10×5=50

【C:フェンタニルにブプレノルフィンを追加した場合】

●●●●●○○○○○
□□□□□□□□□□

・鎮痛力価=10×5+5×5=75


 ほら!、鎮痛効果が増したでしょう?

 しかし、もしも A のように「受容体がフェンタニルで完全占拠」された状態のときにブプレノルフィンを追加したら、ブプレノルフィンは受容体への作用は「部分的」であるが、親和性はフェンタニルよりもずっと強いので、フェンタニルを押しのけてでも結合しようとするかもしれない。結果としての鎮痛効果は、C となり、100→75 へと低下してしまう可能性がある。

 フェンタニルとブプレノルフィンの併用に注意するべきなのは、このように「受容体がフェンタニルで相当量占拠」された状態のときである。

 「フェンタニルで鎮痛を行なっているときに、ブプレノルフィンをわざわざ使用しなくても、フェンタニルを追加すればよいではないか!」とおっしゃる方も当然おられるだろう。術中の鎮痛のみを考えれば、そうである。
ププレノルフィンを併用する目的は、術中鎮痛ではなく術後鎮痛の目的である。フェンタニルだけで鎮痛を行なった場合、基本的にフェンタニルは「短時間作用性」であるから、術中に相当量を使用しない限り、術鎮鎮痛は長くは持続しない。かといって、相当量を使用すれば、開心術時の中等量~大量フェンタニル麻酔に見られるように、呼吸抑制のために人工呼吸をしばらく続けないといけなくなったり、覚醒が不良となる。

 この点、ブプレノルフィンは、よほど大量に使用しない限りは、呼吸抑制には天井効果があり、フェンタニルのように自発呼吸がまったく出ないなどということがない。しかも鎮痛効果がフェンタニルはもとよりモルヒネよりも長時間続く。

 術中は、フェンタニルやレミフェンタニルで鎮痛を行なったが、術後鎮痛が問題になる場合、IV-PCA という選択肢も当然考慮されるわけだが、IV-PCA を行なうほどのこともない場合には、術中にブプレノルフィンを併用しておくと術後鎮痛も良好となる。


<参考>
1.日本麻酔科学会 第59回学術集会より

[P2-40-3] ブプレノルフィン単回静注はレミフェンタニル麻酔後の乳癌術後鎮痛に簡便で有用である

2.過去ログ

ブプレノルフィンの現在の知見とそのユニークな薬理学的特性

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