短時間手術の際にスガマデクスでリバースしなくて済むようにする方法

・スガマデクスは非常に優れた解毒剤であるが、高価すぎるのが玉にきずだ。1時間もかからない簡単な手術に際しても、気管挿管時にロクロニウムを使用すると、覚醒時にどうしてもスガマデクスを使用したくなる。

・ご高齢で全身状態が不良であるにもかかわらず、筋弛緩剤を使用せざるを得ない場合には致し方ないと思うのだが、全身状態が良好な患者さんの小手術のために、スガマデクスを使用するのはいささか医療費の無駄遣いではないだろうか。そこで、考えた。できるだけロクロニウムの使用量を少なくすれば、スガマデクスを使用しなくても済む。

・そもそもロクロニウムの挿管必要量 0.6mg/kg は、それ以前に使用されていたヴェクロニウムに比較して、筋弛緩作用が早く発現するように設定された量である。迅速導入で、より作用発現時間を短くしたい場合は、0.9mg/kg とか 1.0mg/kg が提唱されている。つまり量を増やせば筋弛緩の発現が早くなるのである。逆に投与量が少なければ、気管挿管に適した筋弛緩が得られるようになるまでには時間がかかるが、挿管できない訳ではない。

・現在、私が 1 時間以内に終了できる手術でやっている方法は、「0.3」mg/kg のロクロニウムを投与して、5%セボフルランで「3」分間バッグマスク人工呼吸をして、呼気セボフルラン濃度が「3」%に なった時点で挿管するという方法である(3-3-3法、著者案)。ロクロニウムの投与量を減らした代わりに少し時間をかけて筋弛緩が十分効くのを待つ意味と、セボフルランの筋弛緩作用を期待する意味がある。
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・さらに短時間の手術、「ラリンゴマイクロ」や「鼻骨骨折手術」の場合は、ロクロニウムの使用量を 0.2mg/kg としているが、今のところ、この量でも挿管が可能だ。また、筋弛緩状態を少しでもより良くするために、プライミング・プリンシプルを併用している。フェンタニル 1μg/kg を投与するタイミングで、ロクロニウムを 0.2-0.4ml 程度(0.03mg/kg)投与する。しばらくして、患者さんに「目を開けて!少し視界がぼやけてきて眠たくなりましたかね?」」といって、患者がうなずけば、プライミングの効果が出現してきたということで、本番の導入を開始する。プライミングした場合は、3分まで待たなくても挿管できるようだ。

・麻酔からの覚醒時に、TOF ウォッチを付けて、TOF>90%まで回復していれば、リバースなし。>50%まで回復していれば、アトロピン:ワゴスチグミン=1:2、TOF4まで回復していれば、アトロピン:ワゴスチグミン=2:4で で拮抗している。なんでもかんでもスガマデクスで拮抗するのは、医療費の無駄遣いという気がする。結局は国民みんなが損をしているのだから。

<参考文献>
Venkateswaran R, Chaudhuri S, Deepak K M. Comparison of intubating conditions following administration of low-dose rocuronium or succinylcholine in adults: A randomized double blind study. Anesth Essays Res 2012;6:62-8
「結論: ロクロニウム用量 0.3 mg/kg では、60 または 90 秒で、臨床的に許容可能な挿管条件は得られないが、作用持続時間が短い。ロクロニウム用量 0.6 mg/kg では、60 または 90 秒で、サクシニルコリン 1 mg/kg と同等の臨床的に許容可能な挿管条件が得られる。」

本論文では、ロクロニウム 0.3mg/kg の投与量では、臨床的に許容可能な挿管コンディションを得られないとしているが、挿管までの時間をもう少し長く(3 分=180 秒)取って、さらにセボフルランの筋弛緩作用を追加してやれば、十分な挿管コンディションを得ることができる。

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