Q:気管挿管後に嗄声が生じるのはなぜか?
A:嗄声が生じるメカニズムには大きく 2 つ存在すると考えている。
一つは、気管チューブを留置する際に、チューブの先端で声帯を傷つけたり、留置によって一定の時間気管チューブによって声帯が直接に圧迫を受けたりしたために起こる、喉頭そのものに対する外傷ともいえるものである。
声帯裂傷、声帯の浮腫や血腫、それらの治癒過程での喉頭肉芽腫、輪状披裂関節炎など軽度の嗄声を呈するものから、披裂軟骨脱臼では高度の嗄声が生じる。
また、もう一つの原因は、反回神経麻痺である。声帯の動きを司っている反回神経を気管チューブが間接的に圧迫して麻痺をきたすのである。
反回神経は、その名前が示すように胸腔内で迷走神経から分枝した後、右側は鎖骨下動脈を反回、左側は大動脈弓を反回して、気管と食道の間の溝を通って喉頭へ達する。
この走行過程で、気管チューブのカフの膨脹によって気管壁を介して反回神経が間接的に圧迫を受けて、障害を受ける可能性がある。この神経の走行には個人差があって、気管内のカフの膨脹によってはまったく影響を受けない場合もあれば、強く影響される場合もあるのだろう。
吸入麻酔に亜酸化窒素を日常的に使用していた頃、当時の気管チューブのカフは、亜酸化窒素透過性が高く、麻酔管理中に亜酸化窒素がカフ内に拡散して、次第に過度なカフの拡張やカフ圧が上昇していくという現象が見られた。
昨今の気管チューブのカフは亜酸化窒素透過性が低く、そのような現象は起こりにくくなっているといわれている。しかし、気管挿管直後に一度だけカフ圧を調整したのでは不十分な場合があることを知っておかなくてはならない。
気管挿管後に、手術の体位を取るために頚部の過伸展や過屈曲を行なった場合にも、反回神経に対する圧迫が増強される可能性がある。この場合には行なうべきことは、カフ圧の再調整である。また、術前からそのような体位が想定される場合には、ラセン入気管内チューブを使用することを考慮したほうがよいかもしれない。
また、文献的には、他の部位の手術に比べて胃の手術に際して反回神経麻痺をきたしている例が多いことが報告されており、地方会での報告例でもそうであった。
気管の腹側には馬蹄形の気管軟骨があるが、気管の背側は膜様部と呼ばれる単なる平滑筋であり、食道と接している。気管壁の後面も食道も柔らかい組織であり、ある程度の柔軟性を有しているであろう。
ところが、気管の中には気管チューブが留置されてカフを膨脹され、さらに食道の中に経鼻胃管が挿入されたとしたら、食道と気管の間に挟まれた反回神経は、前から後ろから圧迫を受けることになる。胃の手術に際して反回神経麻痺の合併症が多いことと経鼻胃管の留置とは無関係ではあるまい。
<嗄声を起こさないために>
(1)愛護的な挿管操作
(2)亜酸化窒素透過性の低いカフの気管チューブを選択する
(3)もしくは、亜酸化窒素は使用しない
(4)カフ圧のチェック:挿管直後だけでなく、
・亜酸化窒素を使用している場合は、定期的に。
・頭頚部の体位変換後に再チェック
(5)気管チューブは細目を選択
(6)気管挿管が必須かどうか再考→ラリンジアルマスクを使用
挿管性反回神経麻痺について ~ 旭川医科大学 麻酔科蘇生科講座 Anestation.com
が参考になります。
一つは、気管チューブを留置する際に、チューブの先端で声帯を傷つけたり、留置によって一定の時間気管チューブによって声帯が直接に圧迫を受けたりしたために起こる、喉頭そのものに対する外傷ともいえるものである。
声帯裂傷、声帯の浮腫や血腫、それらの治癒過程での喉頭肉芽腫、輪状披裂関節炎など軽度の嗄声を呈するものから、披裂軟骨脱臼では高度の嗄声が生じる。
また、もう一つの原因は、反回神経麻痺である。声帯の動きを司っている反回神経を気管チューブが間接的に圧迫して麻痺をきたすのである。
反回神経は、その名前が示すように胸腔内で迷走神経から分枝した後、右側は鎖骨下動脈を反回、左側は大動脈弓を反回して、気管と食道の間の溝を通って喉頭へ達する。
この走行過程で、気管チューブのカフの膨脹によって気管壁を介して反回神経が間接的に圧迫を受けて、障害を受ける可能性がある。この神経の走行には個人差があって、気管内のカフの膨脹によってはまったく影響を受けない場合もあれば、強く影響される場合もあるのだろう。
吸入麻酔に亜酸化窒素を日常的に使用していた頃、当時の気管チューブのカフは、亜酸化窒素透過性が高く、麻酔管理中に亜酸化窒素がカフ内に拡散して、次第に過度なカフの拡張やカフ圧が上昇していくという現象が見られた。
昨今の気管チューブのカフは亜酸化窒素透過性が低く、そのような現象は起こりにくくなっているといわれている。しかし、気管挿管直後に一度だけカフ圧を調整したのでは不十分な場合があることを知っておかなくてはならない。
気管挿管後に、手術の体位を取るために頚部の過伸展や過屈曲を行なった場合にも、反回神経に対する圧迫が増強される可能性がある。この場合には行なうべきことは、カフ圧の再調整である。また、術前からそのような体位が想定される場合には、ラセン入気管内チューブを使用することを考慮したほうがよいかもしれない。
また、文献的には、他の部位の手術に比べて胃の手術に際して反回神経麻痺をきたしている例が多いことが報告されており、地方会での報告例でもそうであった。
気管の腹側には馬蹄形の気管軟骨があるが、気管の背側は膜様部と呼ばれる単なる平滑筋であり、食道と接している。気管壁の後面も食道も柔らかい組織であり、ある程度の柔軟性を有しているであろう。
ところが、気管の中には気管チューブが留置されてカフを膨脹され、さらに食道の中に経鼻胃管が挿入されたとしたら、食道と気管の間に挟まれた反回神経は、前から後ろから圧迫を受けることになる。胃の手術に際して反回神経麻痺の合併症が多いことと経鼻胃管の留置とは無関係ではあるまい。
<嗄声を起こさないために>
(1)愛護的な挿管操作
(2)亜酸化窒素透過性の低いカフの気管チューブを選択する
(3)もしくは、亜酸化窒素は使用しない
(4)カフ圧のチェック:挿管直後だけでなく、
・亜酸化窒素を使用している場合は、定期的に。
・頭頚部の体位変換後に再チェック
(5)気管チューブは細目を選択
(6)気管挿管が必須かどうか再考→ラリンジアルマスクを使用
挿管性反回神経麻痺について ~ 旭川医科大学 麻酔科蘇生科講座 Anestation.com
が参考になります。
この記事へのコメント