Q:抜管前後の気管内・口腔内の吸引の順番は? 加圧抜管とは?その意味することろは?

A:気管挿管で管理した全身麻酔症例の抜管前には、必ず気管内吸引を行う。これは、気管チューブの存在が、正常な自浄作用である気管粘膜の繊毛運動を障害したために、チューブが存在しなければ行なわれたであろう気管分泌物の口側への移動を妨げられた結果として、気管・気管支分泌物が気管チューブのカフ以下に貯留している可能性が高いからである。

症例によっては、気管内吸引を行ってもまったく分泌物が引けないこともある。しかし、スモーカーの場合は、必ずと言っていいほど多量の気管内分泌物が吸引できる。

気管内分泌物が多い場合には、少し時間を置いて、再度気管内吸引を行う。
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気管内吸引によって十分に気管内の分泌物が除去できたと判断でき、なおかつ、筋弛緩の拮抗がほぼ完了できたならば、次に口腔内分泌物の除去を行う。
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気管内分泌物の除去が不十分であるのに、吸引チューブで口腔内分泌物を吸引してしまった場合には、再度の気管内吸引を同じ吸引チューブを使用してはいけない。同じ吸引チューブを使用することで、口腔内の雑菌を気管内に送り届けることになってしまう。

口腔内分泌物を除去するのは、抜管直後は声帯の機能がすぐには回復していないために、口腔内に分泌物が多量に存在すれば、気管内に流れ込んでしまう(つまり口腔内分泌物の誤嚥が生じる)からである。

気管内吸引と口腔内吸引が十分に行われ、筋弛緩の拮抗が十分と判断され、規則的な自発呼吸運動が確認できれば、抜管操作に移ることができる。

気管チューブを抜去(抜管)する際には、麻酔器のポップオフ・バルブをクローズ(閉)にして、麻酔バッグをある程度膨らませて、バッグを加圧しながら一気に行なう。この操作を「加圧抜管」と呼んでいる。
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これは、肺内を高い圧にして肺と口腔側(大気圧)との間に圧差を生じさせて、肺から口側に気流を発生させることで、咳反射(声門を閉じた状態で、肺内を一時的に高い圧にし、声門を開放した瞬間に、肺から口側に向かう強い気流を発生させて、気管内と喉頭に存在する異物や分泌物を体外に排出しようとする自浄機能)と同じメカニズムで、気管チューブのカフ上に貯留していたであろう分泌物を口腔内に移動させることを目的としている。

したがって、抜管後には、カフ上に貯留していた分泌物が口腔内に移動してきているはずなので、再度、口腔内分泌物を除去してやる必要がある(二度目の口腔内分泌物除去)。
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この手順を「キ・コ・バ・コ」(①:気管内吸引 ➡ ②:口腔内吸引 ➡ ③:抜管 ➡ ④:口腔内)と研修医には教えている。実は、自分が研修医の頃に、上記のことを教えてもらった際に、手順を覚えるために編み出した用語である。

この記事へのコメント

KODA
2016年07月04日 19:35
先生、素晴らしくわかりやすい解説をありがとうございます。
麻酔科志望の研修医2年目です

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