【投】 中心静脈カテーテル留置における血管合併症:エビデンスに基づく予防と治療の方法

Evidence-Based Methods for Prevention and TreatmentBowdle A.
Journal of Cardiothoracic and Vascular Anesthesia, Vol28, No 2(April),2014: pp358–368

【背景と目的】
・中心静脈カテーテルは長らく,危険な,問題をかかえたデバイスとみなされてきた.
・最近の関心は主に,中心静脈カテーテル関連の感染合併症の減少に向けられるようになり,”中心静脈ラインバンドル”と呼ばれる一連の厳格な無菌処置が感染合併症を減少させた.
・しかし,中心静脈挿入に伴う機械的な合併症はいまだ重大な疾患,死亡の原因となったままである.
・1990年からの ASA のデータベースによると,中心静脈カテーテルの機械的合併症の大部分は,血管損傷であり,「突発的な血管の穿刺と損傷」は AHRQ(アメリカ医療研究品質局)への報告項目になっている.
・幸いなことにほとんどの中心静脈カテーテル関連血管損傷は予防可能である.
・この総説の目的は中心静脈穿刺時の血管合併症を防止するためのエビデンスに基づく方法を検証することである.

【動脈損傷】
・中心静脈穿刺時の細めの針(18G 以下)による予期せぬ動脈穿刺は,4.2-9.3%と報告されている.こうした細めの針による動脈穿刺は,多くの例で害がないと考えられる.
・しかし,動脈穿刺を認識せず,より太いカテーテル(>7 Fr)を挿入してしまう例が 0.1-1.0%でみられる.
・太いカテーテルの挿入は出血,仮性瘤,脳梗塞,死亡の原因となる.

【動脈損傷の予防】
・カテの動脈留置を防止する伝統的な方法は,ガイドワイヤー挿入前に針から出る血液の色調と拍動を観察すること.
・しかし,この方法は信頼が置けないことが示されてきた.
・血液のガス分析がより信頼できる方法として提唱されているが,おおくの医師は測定に時間がかることから現実的ではないと考えるだろう.
・エコーガイドと圧測定の併用がこの合併症を最少にする方法として推奨される.
・中心静脈穿刺においてエコーガイドは間違いなく有用だが,動脈カニュレーションを完璧に除外できるわけではない(とくに鎖骨下静脈穿刺時).
・さらに,ガイドラインの推奨にもかかわらず,エコーの採用は限定されている.
・穿刺針を通じた血圧の測定は,動脈と静脈を鑑別する非常に信頼できる方法である.
・血圧測定法
 - マノメトリー
 - トランスデューサを用いた測定
 - シングルユース・圧トランスデューサ法
・血圧測定法は広く採用されていないというが,一部は動脈カニュレーションの問題が知られていないため,もしくはエコーガイドがリスクを排除してしまったという認識のせいかもしれない.
・エコーガイドと圧の測定はそれぞれ代替手段ではなく,補完的な方法である.
・透視は放射線科医によるインターベンション,循環器内科領域,外科医による中心静脈穿刺では標準的に用いられているが,麻酔科,集中治療,救急科ではめったに使われない.
・透視ではガイドワイヤーの血管入口部だけでなく,すべての経路を見ることができる.
・しかし透視では,ガイドワイヤーが動脈内か静脈内かについてはわずかな位置の違いから間接的に判断されるに過ぎない.

【動脈損傷の治療】
・太いカテーテルが誤って動脈内に留置された場合の治療法
1. カテーテルを抜去し,圧迫する("pull and pressure")
2. 外科的修復
3. 血管内修復
・首や胸腔内の動脈に太いカテーテルを挿入してしまった場合推奨される治療法は,カテーテルをそのまま血管外科医やインターベンション放射線科医にコンサルトして助力を求めることである.
・外科的治療や血管内修復は,カテーテルを引き抜いて圧迫する "pull-and-pressure" 法よりはるかに安全な方法である.
・Gilbert らの知見
1. 動脈カニュレーションはエコーガイド下でも起こりうる
2. 低い位置での内頸静脈穿刺では鎖骨下動脈,無名動脈,大動脈損傷が起こりうる.胸鎖関節以下の動脈損傷は,首からのアプローチでは修復できない.胸腔内での動脈損傷が臨床的に疑われる場合,迅速な画像診断により損傷部位を同定し,外科的あるいは血管内修復を計画する
3. 動脈カニュレーションを放置すると血栓の形成,脳梗塞を起こす
4. カテーテル抜去後の通常の頸動脈二重検査では脳梗塞の可能性をルールアウトできない.このため,麻酔科の患者の場合脳梗塞の見過ごしを避けるため,予定手術を延期することが推奨される
5. "pull and pressure" 手技では仮性動脈瘤,動脈-静脈瘻孔が後に発生しうるので注意深い観察が必要

【静脈損傷と予防】
・静脈の機械的損傷も起こりうる.その大部分はガイドワイヤーが血管壁に押し付けられることで固い dilator やカテーテルが静脈を穿孔することで起きる.
・エコーガイドや圧測定を行なってもこの合併症を防止することはできない.
・おそらく最良の防止手段は透視を用いてガイドワイヤーやカテーテルの進行が適切であることを観察することだろう.
・透視はこの合併症を防止するために使用するべきだが,麻酔,集中治療,救急領域ではほとんど使用されていない.
・その他,カテーテル挿入時にガイドワイヤーを押したり引いた入りしてガイドワイヤーが血管壁に押し付けられていないことを確認すること,カテーテル挿入前に TEE でガイドワイヤーが SVC or 右房にあることを確認することが推奨される.

【血気胸】
・動脈あるいは静脈の穿孔が胸腔に通じている場合,血気胸を生じる.
・縦隔がほとんど空間を生じないのに対し,胸腔は 3 L にも及ぶ空間となりうるため,生命を脅かす大量出血となりうる.
・出血は穿孔を塞いでいるカテーテルを抜去すると増加する場合がある.
・挿入したカテーテルから血液が吸引されない場合は,適切な画像診断ができ,抜去時の出血に対する方策が立つまでは抜くべきではない.
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<投稿者名>
TEE Fan

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