Q:鼻骨骨折整復術の麻酔はどうするか?

 鼻骨骨折の整復は、鼻腔内に金属のヘラを挿入して、天井側に向けて患者の頭部が持ち上がるくらいの強い力を加えて行われる、傍で見ていて何とも「むごたらしい」手術である。

 侵襲の強さもさることながら、場所が場所なだけに当然のことながら鼻出血が予想されるので、局所麻酔だけや鎮静下ではちょっと無理な気がする。ということで、耳鼻科から麻酔科に全身麻酔の依頼がある。

 ところが、この手術は、あっという間に終了してしまう。ものの 5 分か、かかっても 10 分程度である。鼻骨にシーネを当てる操作を含めても 15 分くらいだ。

<悪い麻酔例>
 ロクロニウムを標準量(0.6mg/kg)使用して気管挿管し、手術終了時にはすぐには筋弛緩が切れないもんだから、ブリディオン(スガマデクス)を 2 バイアルも使用して筋弛緩を拮抗して覚醒させる。

A:今は「ラリンジアルマスクによる気道確保と、セボフルランによる全身麻酔」が正解だと思っている。

 昔(ブリディオンが使用できるようになるまで)は、少量の筋弛緩薬(ロクロニウム 0.3mg/kg)を使用して気管挿管し、手術終了後にしばらく待って、硫酸アトロピンとワゴスチグミンを使用して筋弛緩を拮抗して覚醒させていた。

 ブリディオンが使用できるようになってからもしばらくは、以前と同様に、少量の筋弛緩薬(ロクロニウム 0.3mg/kg)を使用して気管挿管し、手術終了後にしばらく待って、ブリディオンで拮抗して覚醒させていた。

 しかし、よくよく考えてみると、鼻骨骨折の整復自体は筋弛緩が必要な手術ではない。もし必要だとしても、セボフルランによる深めの麻酔の筋弛緩で十分である。また、多少の鼻出血はあるものの、口から溢れるほどの出血があるわけでもない。気管挿管自体が必要ないのである。

 「鼻出血があるから、ラリンジアルマスクだと出血が気管内に垂れ込むのでは?」と心配される方もあるだろうが、実際には出血はもっぱら咽頭後壁に溜まるだけで、ラリンジアルマスクを押しのけてまで気管内に垂れ込むことはほとんどない。

 ということで、少量のフェンタニル(1μg/kg)+プロポフォール(1.5mg/kg)で、ラリンジアルマスクを挿入して気道確保し、自発呼吸下にセボフルランによる全身麻酔で維持する。

 手術が終了したら、セボフルランを切るだけだ。筋弛緩薬を使用していないので、当然のことながら拮抗薬は必要ない。通常の「ラリマ・フェンタ麻酔」である。気管挿管よりも覚醒時の咳嗽が少なく穏やかな覚醒が得られるのも利点だ。

 他の手術の場合の通常の「ラリマ・フェンタ麻酔」と異なるのは、ラリンジアルマスク抜去前に、鼻腔から咽頭に垂れ込んだ血液を口腔内吸引しておき、また、ラリンジアルマスク抜去後も、口腔内に血餅が残っていないか確認する必要がある点だ。

 扁桃摘出術の麻酔も、ラリンジアルマスク(フレキシブル)でやっている施設も昨今は多いのではないだろうか。もしも、未だに鼻骨骨折整復術を気管挿管による全身麻酔でやってる方がおられるなら、一度、ラリンジアルマスクでやってみては?フレキシブルでなくクラシカルの標準ラリマで十分ですよ。

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