Q:気管挿管中に生じる換気困難?

 昨日、偶然にも 2 件の術中換気困難が生じた。1 例は 3 歳児の耳鼻科手術、続いてもう 1 例は成人の耳鼻科内視鏡下手術、いずれも気管挿管中である。1 例目の原因は、気管チューブの屈曲閉塞、2 例目は術中の気管支喘息重積発作と考えられた。いずれも事なきを得た。

<発症>
 術中に換気困難が生じた場合に、最初に麻酔担当医が気付く所見としては、
・人工呼吸中の気道内圧の上昇
・手動換気時のバッグの重たさ
・カプノ波形の異常
・カプノの異常値
・カフ漏れの異常音
などである。

<病因>
 実際の原因としては、
1.呼吸回路の閉塞
2.気管チューブの屈曲や閉塞
3.患者の怒責(咳反射)
4.チューブ内の痰による閉塞
5.気管内の痰による閉塞・無気肺
6.気管支痙攣~誤嚥
7.気管支喘息発作
8.気胸や血胸による胸腔内の異物による占拠
が考えられる。

<診断手順>

(1)患者外の要因を否定する。

(1-1)麻酔器と回路に問題ないことを確認する。
・フィルターの手前(Yコネクタ)で麻酔回路を外して、患者肺の代わりに手袋を付けて、麻酔器を人工呼吸から手動に切り替えて、スムーズに換気できるのであれば、麻酔科医の視野外も含めて換気回路(特に吸気側の麻酔回路)の閉塞はなく、自動(人工呼吸)の過程に問題がある。

(1-2)患者と機械を接続している気管チューブに問題がないことを確認する。
・気管チューブ内に吸引チューブを挿入することによって、気管チューブの屈曲による閉塞の有無、気管チューブ内の痰・血液槐の有無を確認できる。

(2)患者側の要因を検索する。
・手動換気をしてみて、間歇的に換気が可能、また、筋弛緩剤を投与して換気異常が解消するのであれば、患者の怒責(咳反射)が原因である→筋弛緩剤を投与する。

・麻酔器・回路・気管チューブ・筋弛緩状態に異常がなければ、これからは内科医の世界である。

(2-1)気管内の痰の有無
・前項と同じ吸引操作で、気管チューブ先端よりもさらに奥深くまで吸引チューブを挿入することにより、気管や主気管支を閉塞している痰や血液を検出できることがある。

(2-2)胸部聴診や胸部写真による内科的鑑別診断
・胸部聴診で明らかな左右差があれば、片肺挿管、非聴取側の気胸や血胸が鑑別診断にあがる。
・吸気音や呼気音に異常があれば、誤嚥に後続する気管支痙攣や気管支喘息発作の可能性がある。
・片肺挿管が疑わしければ、気管チューブを浅くして両肺の聴診。それでも左右差が改善しなければ、気胸と血胸を疑って胸部写真を撮影する。

<これまで経験した気道内圧上昇・換気困難>
・患者が怒責している(咳反射)
・気管チューブの屈曲による閉塞
・腹臥位手術中の痰による気管チューブ閉塞(ヘビースモーカー)
・劇症アナフィラキシーショックに伴う気管支痙攣(喘息発作)
・気管支喘息患者の術中発作
・食道術後の急速大量血胸
・マスク麻酔中、その後の換気困難~誤嚥に引き続く気管支痙攣

<アプローチ>
・手動で換気してみる~自動換気や回路・気管チューブの異常を除外できる
・吸引チューブを挿入してみる~気管チューブ内や気管内の痰による閉塞を確認できる。
・聴診してみる~片肺挿管や気胸、血胸を疑うことができる。
・胸部写真やガス分析で本質的な原因を検索する。

麻酔科医が診ているのは、「単味の患者」ではなく「機械に接続された生体」なので、「内科診断学ではなく、麻酔科的診断学が必要!」というのが個人的持論である。

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