Q:全身麻酔の抜管後には、酸素投与は必須か?
A:経験的には必須ではないと考えている。
私は、個人的には、相当長時間の手術や、開胸・開腹手術でない限りは、抜管後はほとんどと言ってよいほど、現在は、酸素投与を行っていない。
当院では、全身麻酔後に病棟に帰室させる際に、ルーチンの「酸素ボンベ+フェースマスク」による酸素投与は行っていない。必要時にだけ「酸素ボンベ+マスク」を持参してもらっている。
その昔、亜酸化窒素をルーチンに使用していた頃は、覚醒させる段階になったら、必ず純酸素にして覚醒させ、抜管後は必ず酸素投与を行っていた。
高濃度(50~70%)の亜酸化窒素を長時間吸入させた後には、体内に相当量の亜酸化窒素が蓄積されており、亜酸化窒素の投与を中止しても(吸気ガスの亜酸化窒素濃度はゼロ)、体内の亜酸化窒素ガスが肺胞内に急速に拡散してきてしばらくの間は呼気に排出され続ける。
そのため、すぐに空気を吸入させて覚醒させると、肺胞内に遊出してきた亜酸化窒素のために相対的に酸素分圧が急激に低下するために、いわゆる「拡散性低酸素症」を生じる。そこで、亜酸化窒素吸入後は 100% 酸素を投与しながら覚醒させなくてはいけなかった。したがって、確かに、この場合の最良の治療法は「酸素投与」であった。
しかし、昨今、亜酸化窒素を使用することがほとんどなくなった。少なくとも「拡散性低酸素症」の危険はないのである。
肺の酸素化が低下するメカニズムには、「肺胞低換気」、「換気血流不均衡」、「シャント」、「拡散障害」の 4 つであることは、学生でも知っている。さらに、肺の酸素化能が十分であっても、発熱によって酸素消費量が増加したり、心拍出量が十分でない場合には低酸素症が発生する可能性はある。
通常、短時間の全身麻酔後には、術前から「換気血流不均衡」、「シャント」、「拡散障害」などの病態がない限りは、低酸素症が発生する原因のほとんどは、「肺胞低換気」である。相当長時間の手術の場合や、開胸開腹手術の場合には、さらに「換気血流不均衡」や「拡散障害」の要因が加わってくる。
では、なぜ全身麻酔後には「肺胞低換気」が起こりやすいのだろうか? これは簡単である。筋弛緩剤、鎮静剤、オピオイド系鎮痛薬のせいで、肺胞換気量が低下するからだ。つまり、筋弛緩からの回復や拮抗が不十分であったり、鎮静剤やオピオイド鎮痛剤のせいで二酸化炭素の蓄積に対して呼吸中枢が敏感に反応できないためである。
とすれば、このような状態の時に、もっとも優れた治療は「酸素投与」であろうか?
原因が「肺胞低換気」であり、さらにその原因が残存筋弛緩薬にあるのなら、最善の治療は十分な筋弛緩の拮抗である。また、鎮静剤(プロポフォールやセボフルラン)の効果が十分に低下していないのであれば、換気を促しながら覚醒度が上がるのを待つ。あるいは、オピオイドによる呼吸抑制が原因であるのなら、十分な換気量が確保できるまで、やはり換気を促しながら徐呼吸の改善を待つのがよいと考えている。
原因がどこにあるのか分からないままに、むやみに「酸素投与」をするのは、ショックの原因が何か分からないのに、何でもかんでも「ドーパミン」を投与するのに似ていると思う。ショックの原因が脱水や出血であるのならば容量負荷が適切であるし、心原性ならばドーバミンが適切な場合もあるだろう。はたまた、アレルギー反応による末梢血管抵抗の低下が原因なのであれば、血管収縮薬が適切であろう。
高濃度の酸素さえ吸入させていれば、残存筋弛緩の存在、少々の過鎮静、徐呼吸があっても、とりあえず酸素飽和度は良い値が出るだろう。しかし、酸素吸入下に酸素飽和度が良ければ帰室許可を出してよいだろうか?
私が、抜管後にほとんど酸素投与を行っていない理由はここにある。いつまでも酸素投与をしていては、帰室させてよいかどうかの判断と、酸素を持参させる必要があるかどうかを判断できないからだ。
また、呼吸抑制がある状態で、不必要に高濃度の酸素を投与すれば、高率に無気肺が発生することも懸念される。
空気吸入下で、「はい、深呼吸して!!」という声掛けをしなくても、酸素飽和度が十分維持できるのであれば、即刻、帰室可能である。
もしも、深呼吸の直後には、十分に酸素飽和度が上昇するのに、促さないと酸素飽和度が低下してしまう場合には、原因は明らかに肺胞低換気であり、麻酔薬の効果の消退を待つのがよいだろう。
さらに、深呼吸をさせても十分に酸素飽和度が上昇しない場合には、「肺胞低換気」以外の要因があり、すぐには改善が期待できないので、酸素化以外の条件が整っていれば、「酸素ボンベ+マスク」を持参の上、酸素マスク下に帰室許可を出すことになる。
私は、個人的には、相当長時間の手術や、開胸・開腹手術でない限りは、抜管後はほとんどと言ってよいほど、現在は、酸素投与を行っていない。
当院では、全身麻酔後に病棟に帰室させる際に、ルーチンの「酸素ボンベ+フェースマスク」による酸素投与は行っていない。必要時にだけ「酸素ボンベ+マスク」を持参してもらっている。
その昔、亜酸化窒素をルーチンに使用していた頃は、覚醒させる段階になったら、必ず純酸素にして覚醒させ、抜管後は必ず酸素投与を行っていた。
高濃度(50~70%)の亜酸化窒素を長時間吸入させた後には、体内に相当量の亜酸化窒素が蓄積されており、亜酸化窒素の投与を中止しても(吸気ガスの亜酸化窒素濃度はゼロ)、体内の亜酸化窒素ガスが肺胞内に急速に拡散してきてしばらくの間は呼気に排出され続ける。
そのため、すぐに空気を吸入させて覚醒させると、肺胞内に遊出してきた亜酸化窒素のために相対的に酸素分圧が急激に低下するために、いわゆる「拡散性低酸素症」を生じる。そこで、亜酸化窒素吸入後は 100% 酸素を投与しながら覚醒させなくてはいけなかった。したがって、確かに、この場合の最良の治療法は「酸素投与」であった。
しかし、昨今、亜酸化窒素を使用することがほとんどなくなった。少なくとも「拡散性低酸素症」の危険はないのである。
肺の酸素化が低下するメカニズムには、「肺胞低換気」、「換気血流不均衡」、「シャント」、「拡散障害」の 4 つであることは、学生でも知っている。さらに、肺の酸素化能が十分であっても、発熱によって酸素消費量が増加したり、心拍出量が十分でない場合には低酸素症が発生する可能性はある。
通常、短時間の全身麻酔後には、術前から「換気血流不均衡」、「シャント」、「拡散障害」などの病態がない限りは、低酸素症が発生する原因のほとんどは、「肺胞低換気」である。相当長時間の手術の場合や、開胸開腹手術の場合には、さらに「換気血流不均衡」や「拡散障害」の要因が加わってくる。
では、なぜ全身麻酔後には「肺胞低換気」が起こりやすいのだろうか? これは簡単である。筋弛緩剤、鎮静剤、オピオイド系鎮痛薬のせいで、肺胞換気量が低下するからだ。つまり、筋弛緩からの回復や拮抗が不十分であったり、鎮静剤やオピオイド鎮痛剤のせいで二酸化炭素の蓄積に対して呼吸中枢が敏感に反応できないためである。
とすれば、このような状態の時に、もっとも優れた治療は「酸素投与」であろうか?
原因が「肺胞低換気」であり、さらにその原因が残存筋弛緩薬にあるのなら、最善の治療は十分な筋弛緩の拮抗である。また、鎮静剤(プロポフォールやセボフルラン)の効果が十分に低下していないのであれば、換気を促しながら覚醒度が上がるのを待つ。あるいは、オピオイドによる呼吸抑制が原因であるのなら、十分な換気量が確保できるまで、やはり換気を促しながら徐呼吸の改善を待つのがよいと考えている。
原因がどこにあるのか分からないままに、むやみに「酸素投与」をするのは、ショックの原因が何か分からないのに、何でもかんでも「ドーパミン」を投与するのに似ていると思う。ショックの原因が脱水や出血であるのならば容量負荷が適切であるし、心原性ならばドーバミンが適切な場合もあるだろう。はたまた、アレルギー反応による末梢血管抵抗の低下が原因なのであれば、血管収縮薬が適切であろう。
高濃度の酸素さえ吸入させていれば、残存筋弛緩の存在、少々の過鎮静、徐呼吸があっても、とりあえず酸素飽和度は良い値が出るだろう。しかし、酸素吸入下に酸素飽和度が良ければ帰室許可を出してよいだろうか?
私が、抜管後にほとんど酸素投与を行っていない理由はここにある。いつまでも酸素投与をしていては、帰室させてよいかどうかの判断と、酸素を持参させる必要があるかどうかを判断できないからだ。
また、呼吸抑制がある状態で、不必要に高濃度の酸素を投与すれば、高率に無気肺が発生することも懸念される。
空気吸入下で、「はい、深呼吸して!!」という声掛けをしなくても、酸素飽和度が十分維持できるのであれば、即刻、帰室可能である。
もしも、深呼吸の直後には、十分に酸素飽和度が上昇するのに、促さないと酸素飽和度が低下してしまう場合には、原因は明らかに肺胞低換気であり、麻酔薬の効果の消退を待つのがよいだろう。
さらに、深呼吸をさせても十分に酸素飽和度が上昇しない場合には、「肺胞低換気」以外の要因があり、すぐには改善が期待できないので、酸素化以外の条件が整っていれば、「酸素ボンベ+マスク」を持参の上、酸素マスク下に帰室許可を出すことになる。
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