脊椎麻酔と全身麻酔による人工股関節全置換術および人工膝関節全置換術後の罹患率と死亡率:後ろ向き分析

THA5.png・人工関節全置換術における麻酔をめぐる長年の議論にもかかわらず、最適な麻酔法はまだ明確に特定されていない。人工関節全置換術を受ける患者には、脊椎麻酔(SA)または全身麻酔(GA)が行われる。関節形成術の文献では、術後の罹患率に差があることが報告されているが、股関節骨折の文献では、SA と GA の優劣は証明されていない。本研究の目的は、この関係をさらに調査し、人工股関節置換術と人工膝関節置換術の初回手術において、SA を受けた患者と GA を受けた患者で罹患率と死亡率に有意差があるかどうかを明らかにすることである。

・2007 年 2 月から 2021 年 2 月までに初回人工股関節全置換術または人工膝関節全置換術を受けた患者を後ろ向きに検討した。この集団から 4 つのコホートを作成した: THA/GA(n=1,266)、THA/SA(n=1,084)、TKA/GA(n=882)、THA/SA(n=2,067)。90 日以内の再入院、365 日以内の死亡率、術後 30 日以内の血栓塞栓イベントをロジスティック回帰分析を用いて比較した。多変量モデルでは年齢、肥満度(BMI)、チャールソン併存疾患指数(CCI)を調節した。

術後 30 日以内に深部静脈血栓症(DVT)をきたすオッズは、 THA/GA 群(OR[オッズ比]=3.1;95%CI[信頼区間]:1.5〜7.0;P=0.004)と TKA/GA 群(OR=1.9;95%CI:1.2〜3.0;P=0.005)の両分析で上昇した。同様に、肺塞栓症(PE)のリスクは、THA/GA 群で高 かった(OR=3.9;95%CI: 1.2〜17.3;P=0.04)。また、術後 365 日以内の死亡率も THA/GA 群で高かった(OR=4.3; 95% CI: 1.7 〜 13.0、P=0.004)。TKA 患者では他に差はみられなかった。

・これらのデータから、初回人工膝関節全置換術では、脊椎麻酔も全身麻酔もリスクプロファイルが同等であり、妥当な選択肢である。しかし、全身麻酔は、人工関節全置換術では DVT、人工股関節全置換術では PE の発生率が高くなる可能性がある。全身麻酔はまた、人工股関節全置換術後 1 年以内の死亡率の増加とも緩やかに関連していたが、この結果は慎重に考えるべきである。

術後1ヶ月以内に DVT を発症する確率が、THA と TKA で、全身麻酔の場合、脊椎麻酔よりもそれぞれ、3 倍、2 倍も高い。THA 後に肺塞栓症をきたす確率も全身麻酔の場合には脊椎麻酔よりも 4倍も高い。もっとも血栓形成傾向が高まる時期に下半身の血管が拡張しているか否かが重要なファクターになるのかも・・・。

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