全身麻酔を必要とする全症例に迅速導入法を用いることの是非

是非.png・迅速導入(RSI)とは、全身麻酔導入のテクニックの一つで、麻酔薬(鎮静薬、筋弛緩薬、鎮痛剤)を同時に静脈内投与し、約 60〜90 秒後に手動の換気を行わずに気管挿管を行うものである。RSI の主な目的は、胃内容物誤嚥のリスクを最小限に抑えることであるため、誤嚥のリスクが高い患者、特に腹部膨満患者に行われる。しかし、全身麻酔を必要とする全症例で RSI を第一選択とすべきかどうかは、まだ解明されていない。

RSI の利点の一つは、本来の目的である胃気腹や嘔吐のリスクが低いことである。また、RSI は揮発性麻酔薬を必要としないため、揮発性麻酔薬による環境汚染の心配がない。RSI のもう一つの利点は、換気を行わないためエアロゾルの発生が減少することである。したがって、RSI は COVID-19 患者の気管挿管に推奨されている。これらの利点は、現在のポストパンデミック社会において、全身麻酔を必要とする全症例に RSI を使用することを支持している。

一方、RSI にはいくつかの欠点がある。第一は、換気ができないことによる気道介入の遅れである(約 60〜90 秒)。これは、予期せぬ気道確保困難(DA)の場合に、生命を脅かす遅れにつながる可能性がある。RSI のもう一つの欠点は、必要な麻酔薬の投与量が多くなりがちで、血行動態の変化のリスクを高める可能性があることである。さらに、多くの気道管理ガイドラインでは、麻酔薬投与後に予期せぬ DA が発生した場合、意識の回復と自発呼吸が主要な選択肢であるとしている。しかし、高用量の麻酔薬の投与は、覚醒の遅延や、重大インシデントにおける高用量の拮抗薬(スガマデクスなど)の必要性とも関連している。したがって、RSI は DA や血行動態の変化が予想されるシナリオには適さない。

・医療従事者をエアロゾル曝露から確実に保護する RSI の利点と、極めてまれな予期せぬ DA 症例において生命を脅かす遅れの可能性があるという欠点を考慮すると、日常的な症例における全身麻酔導入の主要な方法として RSI を使用することを主張する可能性がある。換気を行わないことを含む RSI の定義からは若干逸脱するが、換気が可能であることを確認するために、入眠直後に 1 回、ごく少量の換気(いわゆる修正 RSI よりもさらに少量)を行うことは、生命を脅かす可能性のある遅れに対処しながら RSI の利点を最大限に生かす、最適な選択肢となりうる。注意すべきは、全身麻酔を導入する第 1 選択の方法として RSI を用いるかどうかを決定する際には、利点と欠点とを比較検討することが不可欠であるということである。しかし、パンデミック後の現在の社会では、ビデオ喉頭鏡、スガマデクス、先進的な声門上気道器具の普及に代表されるように、時代の変化とともに全身麻酔導入のパラダイムシフトが迫っているかもしれない。

私個人は、高度の肥満や、酸素化が相当悪い患者以外は、ほぼ全例、いつも(輪状軟骨圧迫はなしの)迅速導入でやっている。

【出典】
Pros and cons of using rapid sequence induction in all cases requiring general anesthesia
Pros and cons of using rapid sequence induction in all cases requiring general anesthesia

この記事へのコメント