Q:手術中に行う肺保護換気とは?

肺保護換気の基本原則
1. 低一回換気量(tidal volume):
一回換気量とは、一回の呼吸で肺に出入りする空気の量です。肺保護換気では、過膨張や肺損傷を防ぐために一回換気量を制限します。通常、体重 1kg あたり 6~8mL の範囲に設定されます。このアプローチは、ARDS(急性呼吸窮迫症候群)患者や手術後の患者に特に効果的です。
2. 適切な呼吸回数(呼吸数):
換気が十分でないと酸素化が低下するため、呼吸回数を調整して動脈血酸素分圧(PaO2)が適切に維持されるようにします。呼吸数は通常 12〜20 回/分程度が設定されます。
3. PEEP(呼気終末陽圧):
PEEP は呼気終了時に肺に残る圧力を指し、肺胞の虚脱を防ぐ役割があります。PEEP が適切であると、酸素交換の効率が改善され、肺の損傷リスクも低減します。過度な PEEP は肺に負担をかけることもあるため、最適なレベルの調整が必要です。
4. 低い酸素濃度:
一般的に、人工呼吸の吸入酸素濃度(FiO2)は低く設定し、酸素濃度を高くしすぎないようにします。高い酸素濃度は酸素毒性を引き起こす可能性があるため、必要最低限に保つことが推奨されます。
肺保護換気の目的と利点
・過膨張の防止:過度な換気や過剰な気道圧は肺胞を破壊し、肺損傷(ブラ・ブレブ破裂、肺胞の破綻)を引き起こす原因となります。低一回換気量で換気を行うことで、これを防ぐことができます。
・急性肺損傷(ALI)や ARDS の予防:肺保護換気は、これらの病態において肺損傷を悪化させないようにするための最適な方法とされています。
・術後の呼吸管理の改善:手術後の患者が人工呼吸器に頼る場合でも、肺保護換気は術後合併症のリスクを減少させる効果があります。
・肺コンプライアンスの維持:肺の過伸展を防ぐことで、肺のコンプライアンス(柔軟性)を保ち、呼吸機能の改善が期待できます。
肺保護換気の実施における課題
・患者の状態に応じた適切な潮気量や PEEP の設定は、患者ごとに異なるため、慎重な調整が必要です。
・長時間の手術や重症患者では、適切な酸素化と換気を維持しながら肺保護換気を行うことが難しくなる場合もあります。
手術中における肺保護換気は、特に呼吸器系に問題がある患者にとって非常に重要な戦略であり、患者の回復において重要な役割を果たします。
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