Q:全身麻酔下の手術中はどうして高濃度の酸素を吸入させるのか?

高濃度酸素の吸入.pngA:全身麻酔下の手術中に高濃度の酸素(通常 50% 以上の酸素濃度)を吸入させる主な理由は、患者の安全を確保し、酸素供給を最適化するためです。以下にその具体的な理由を説明します。

1. 組織への酸素供給の確保
全身麻酔中は、患者の自発呼吸が抑制されることが多く、人工呼吸器に依存します。この状況では、体内への酸素供給が麻酔科医の管理に完全に依存するため、高濃度の酸素を吸入させることで次の目的を達成します:
・血中酸素飽和度(SpO2)を十分なレベルに維持
・組織や臓器への酸素供給を最適化し、低酸素症を防止

2. 予備酸素(酸素リザーブ)の確保
手術中にはさまざまな予期せぬ事態(気道閉塞、挿管トラブル、呼吸器の一時的な停止など)が発生する可能性があります。これらのリスクを軽減するために、以下の措置が取られます:
・高濃度酸素の吸入により、肺胞内に酸素の予備が蓄えられるため、一時的に換気が停止しても低酸素状態になるまでの時間を延ばすことができます。
・特に麻酔導入時や覚醒時にこの予備酸素が重要です。

3. 酸素需要の変化への対応
手術中の生理的ストレスや麻酔薬の影響で、患者の酸素消費量が増減することがあります。高濃度酸素を吸入させることで、これらの変化に柔軟に対応できます。

4. 二酸化炭素洗い出しの促進
人工呼吸器の使用中は、二酸化炭素の排出効率を高めるために高濃度酸素を用います。これにより、麻酔中に起こり得る呼吸性アシドーシスを予防します。

5. 酸素欠乏リスクの軽減
手術中には、以下のような状況で低酸素状態が起こりやすいため、高濃度酸素を用いることでこれを予防します:
・気道確保困難(挿管困難や誤挿管)
・肺の換気・血流バランスの不均衡(シャント、デッドスペース増加)
・心肺機能が低下した患者や大量出血などで組織への酸素運搬が妨げられる場合

6. 手術環境の特殊性
手術中の体位(腹臥位や側臥位など)や操作(胸腔鏡、腹腔鏡手術など)は、肺の換気や酸素化を一時的に妨げることがあります。これに対応するために高濃度酸素が必要です。

注意点
一方で、高濃度酸素の長時間使用はリスクも伴います:
・吸入酸素濃度が過剰に高い場合、肺毒性(酸素中毒)のリスクがある。
・酸素濃度の過剰な上昇は、手術中の火災リスク(特に電気メスやレーザーを使用する場合)を高める。

そのため、適切な濃度と持続時間を麻酔科医が慎重に管理します。

結論
高濃度酸素の吸入は、全身麻酔中に患者の安全を確保し、酸素供給を最適化するために欠かせない手段です。ただし、使用には適切なモニタリングと管理が必要であり、患者の状態や手術の種類に応じて最適な濃度が調整されます。

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