Q:身長、体重、年齢、性別のうち気道の長さを決定するもっとも重要なパラメータは何か?

気管チューブの留置.pngA:(はっきり言って「愚問」です)気道の長さを決定する最も重要なパラメータは「身長」 です。

理由
1. 気道の長さは体の成長に比例する
・気道の長さ(口から気管分岐部までの距離)は、身長と相関が高い ことが研究で示されています。
・特に 成人では身長の約20~25%が気道の長さ という報告もあります。

2. 身長と気道サイズの関係が一定
・体重や年齢よりも 身長の増加に伴い気道も比例的に長くなる ため、挿管の際のチューブ挿入深さの決定には身長が最適な指標になります。
・例: 小児の挿入深さを求める公式 (身長 ÷ 10) + 5 が使われるのもこの理由による。

3. 体重は直接的な影響を与えない
・肥満などで体重が増加しても、気道の長さ自体は変わらない。
・ただし、肥満は 気道の形状(軟部組織の影響) に影響を与え、挿管の難易度を上げることはある。

4. 年齢と気道長の関係は一定ではない
・個人差が大きいため、年齢のみで気道長を正確に推測するのは難しい。
・たとえば、同じく 10 歳児でも身長が 150cm の子と 130cm の子では気道の長さに大きな違いがある。

5. 性別による影響はあるが、主因ではない
・一般的に、男性のほうが気道が長い 傾向はあるが、これは 身長の影響 によるものが大きい。

結論
・気道の長さを決定する最も重要なパラメータは「身長」
・体重や年齢よりも、身長に基づいた推定が最も正確
・性別も影響するが、主に身長の影響によるもの

そのため、気管チューブの適切な挿入深さを決定する際には、身長を最も重視すべき というのが臨床的に推奨されています。

文献紹介
Hunyady AI. Front teeth-to-carina distance in children undergoing cardiac catheterization, Anesthesiology. 2008 Jun;108(6):1004-8.
2008 年に、Hunyady らは、心臓カテーテル検査を受ける生後 1 日から 19 歳までの 170 人の乳児および小児を対象にして、前歯から気管分岐部(カリナ)までの距離(FT-C)を測定し、身長との相関を分析した。
FT-C は 0.12 × 身長(cm)+5.2 の式で予測可能であり、身長との相関が最も強かった(R=0.98)。
Morgan の公式(ETT 留置長=0.10×身長+5)は有用だが、乳児ではチューブが遠位に位置しやすいため注意が必要。
・正確な挿管には聴診などの確認が不可欠である。
と報告している。
Zhuang PE, A new formula based on height for determining endotracheal intubation depth in pediatrics: A prospective study. J Clin Anesth. 2023 Jun:86:111079.
2023 年に、Zhuang らは、経口気管麻酔による全身麻酔を受ける待機的手術を受ける小児(4~12歳)の気管挿管適正深度を決定する新たな身長ベースの公式を開発し、既存の APLS(年齢ベース)および MFL(中指長)ベースの公式と比較した。111 名のデータを用い、気管長と気管チューブの深さを解析した結果、身長が最も強い相関を示し、新公式 「気管チューブの深さ(cm)=0.1×身長(cm)+4」 が導出された。新公式は、APLSや MFL よりも高い精度で適正な気管チューブの深さを予測できることが示され、小児の安全な気管挿管に有用であると結論づけられた。

日本の麻酔学の教科書には、年齢をパラメータとする「チューブID= 4+年齢÷4」とか「チューブの深さ=12+年齢÷2」などが、40 年前と同じようにいまだに記載されているが、年齢が最重要パラメータでないことくらい小学生が考えたってわかることだ。
ある小学生、宣はく(のたまわく)「着る服や靴のサイズを決めるのに年齢で決めれるわけないやろ!? 」
先生:「正解!」(パチ・パチ・パチ)


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