Q:迅速導入におけるセリック手技についての現代的な評価は?

以下に、現代的な評価のポイントをまとめます。
かつての理論的根拠:
セリック手技は、輪状軟骨を後方に圧迫することで食道を閉塞させ、胃内容物の逆流と誤嚥を防ぐという理論に基づいていました。特に、フルストマック時や誤嚥のリスクが高い患者に対する RSII において、標準的な手技の一部として広く採用されてきました。
現代的な評価の変遷と批判点:
・有効性のエビデンスの不足: 近年の大規模な臨床研究では、セリック手技が誤嚥のリスクを明確に減少させるという強力なエビデンスは示されていません。むしろ、いくつかの研究では、誤嚥の発生率に差がない、あるいは セリック手技群でわずかに高い傾向すら示唆されています。
・気道確保の妨げになる可能性: セリック手技が、喉頭展開を困難にし、声門の視認性を悪化させる可能性が指摘されています。特に、適切な圧迫部位や圧迫力が不明確な場合、術者の気道確保操作を妨げる可能性があります。
・食道閉塞の不確実性: CT や MRI などの画像診断を用いた研究では、輪状軟骨の圧迫が必ずしも食道を完全に閉塞するわけではないことが示されています。食道は気管の側方や後方に位置していることが多く、単純な後方への圧迫だけでは効果が得られない場合があります。
・逆流時の有害性: 嘔吐反射が起こっている患者に対して セリック手技を行うと、食道破裂のリスクを高める可能性が指摘されています。
・適切な手技の難しさ:正しい圧迫部位と適切な圧迫力(推奨は 20-30 N)を維持することは、実際には困難 であり、術者や補助者の経験によってばらつきが出やすいことが知られています。
・他の対策の進化: 誤嚥予防のための他の対策(適切な体位、迅速な気道確保、カフ付きチューブの使用など)の重要性が認識されるようになり、セリック手技の相対的な重要性が低下しています。
現代的なガイドラインの動向:
・多くの現代的な麻酔科学会や救急医学会のガイドラインでは、セリック手技のルーチンな使用を推奨していません。
・特定の状況下(例:十分な訓練を受けた術者がいる場合、他の誤嚥予防策が困難な場合など)においては、考慮されることもありますが、その有効性や潜在的なリスクについて慎重な評価が必要です。
・重要なのは、患者ごとのリスク評価に基づいて、最適な誤嚥予防戦略を選択することです。
結論:
現代的な評価では、セリック手技はかつて考えられていたほどの有効性は確立されておらず、気道確保を妨げる可能性や有害性も指摘されています。そのため、RSII におけるルーチンな使用は推奨されず、他の誤嚥予防策と合わせて、患者ごとの状況に応じて慎重に判断されるべきです。
今後の方向性:
セリック手技に代わる、より効果的で安全な誤嚥予防策の開発や、患者ごとのリスク層別化に基づいた個別化された戦略の確立が求められています。
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