Q:誤認識による食道挿管のリスクを低減するための戦略とは?

食道挿管2.pngA:誤認識による食道挿管(unrecognised oesophageal intubation)は、気管挿管時にチューブが誤って食道に挿入され、その誤挿管に気づかずに換気を行うことで、重篤な低酸素症や心停止を引き起こす可能性のある重大な医療事故です。2025 年に BJA Open に掲載された以下の研究では、英国の「困難気道学会(Difficult Airway Society:DAS)」の会員を対象に、食道挿管のリスク低減に関する戦略や認識について調査が行われました。以下に、同研究の結果を基に、誤認識による食道挿管のリスクを低減するための主な戦略を解説します。

1. 呼気終末二酸化炭素(ETCO2)の確認
DAS 会員の多くが、挿管後のチューブ位置確認において、波形カプノグラフィーによる ETCO2 の持続的な検出を最も信頼性の高い指標と認識しています。ETCO2 が持続的に検出されない場合、食道挿管の可能性を強く疑うべきです。

2. 視覚的および聴覚的確認の補助的使用
胸部の視診や聴診は、ETCO2 の確認を補完する手段として使用されますが、これらの方法は単独では信頼性が低いため、ETCO2 の確認と併用することが推奨されます。

3. 標準化された手順と教育の徹底
DAS 会員の多くが、標準化された手順の導入と定期的な教育・訓練、特に「2 人によるカプノグラフィの口頭確認」が、食道挿管のリスク低減に寄与すると考えています。具体的には、挿管後の確認手順を明文化し、全スタッフが一貫して実施できるようにすることが重要です。

4. 迅速な認識と対応のための訓練
食道挿管が発生した場合に迅速に認識し、適切に対応できるよう、シミュレーショントレーニングや定期的なリフレッシャーコースの実施が推奨されています。これにより、実際の臨床現場での対応能力が向上します。

これらの戦略を組み合わせることで、誤認識による食道挿管のリスクを大幅に低減することが可能です。特に、ETCO2 の持続的な検出を最も信頼性の高い指標として位置づけ、標準化された手順と教育の徹底を図ることが、患者の安全性向上に直結します。

また、これらに加えてビデオ喉頭鏡は直視型喉頭鏡に比較して、声門の視認性を向上させ、それによって食道挿管の割合を低減できることから、ビデオ喉頭鏡のルーチンの使用が提唱されています。

この記事へのコメント