Q:カプノグラフィー以外の従来の臨床所見は気管挿管確認にどの程度有用なのか?

カプノグラフィ3.pngA:気管チューブが確実に気管に留置されているかどうかを確認する(食道挿管を除外する)ために、カプノグラフィー以外にも、従来から以下の[表1]に示すようないろいろな臨床所見が使用されていますが、はたして、これらの実際の臨床的な有用性はどの程度のものなのでしょうか?Hansel らが 2023 年に発表したこのシステマティックレビューおよびメタアナリシスでは、気管挿管の正確な確認や食道誤挿管の除外に用いられる臨床所見や器具の診断精度が評価されました。

5 点聴診や食道検出器などの複数の手法が検討されましたが、カプノグラフィが利用できない時に限っては、食道検出器を次善の策として利用可能であるが、それ以外の臨床所見は偽陽性率が高く、日常的に使用することは推奨されませんでした。

表1. 評価された臨床所見・器具の実施方法と予想される所見の説明
臨床検査予想される所見感度偽陽性率
ミスト法(曇り)呼気時に気管チューブやチューブと回路を接続するカテーテルマウント内に曇りや結露が見られることは、気管内挿管がされていることを示唆する。0.98 (0.89-0.99)0.69 (0.43–0.87)
胸部聴診聴診器を用いて腋窩部で左右両側に呼吸音が聴取されることは、気管内挿管がされていることを示唆する。0.89 (0.50-0.98)0.14 (0.08–0.23)
5 点聴診肺底部と肺尖部の聴診に加え、心窩部での聴診を行い、心窩部を除くすべての部位で呼吸音が聴取されることは、気管内挿管がされていることを示唆する。0.94 (0.71-0.99)0.18 (0.08–0.36)
胸郭の動き人工換気中に胸郭の動きが観察されることは、気管内挿管がされていることを示唆する。N/AN/A
“ハングアップ”細長いデバイスを少なくとも 30cm まで挿入し、抵抗を感じる場合は、気管内に挿管されていると判断される。N/AN/A
食道検出器チューブの先端に取り付ける低コストのデバイスで、自己膨張型のバルーンまたは50〜60mlのシリンジから成る。バルーンが数秒で再膨張するか、シリンジで空気を容易に吸引できる場合、チューブは気管内にあると判断される。0.96 (0.92-0.98)0.05 (0.02–0.09)

「偽陽性率」は 「チューブは食道にあるが、臨床所見ではそうではないと言っている」ということに相当し、臨床現場で信用すると致命的となる組み合わせです。食道挿管の誤診は高度脳低酸素症や死亡へと急速に進行するため、食道挿管を確実に除外するための臨床所見・検査では、非常に低い偽陽性率であることが求められます。

「感度」は、実際にチューブが気管に留置されている場合に、検査で正しく陽性となる割合です。聴診(胸部聴診、5 点聴診)では 6~11%の確率で、気管内に留置されていることが確認できないということになります。

ミスト法は気管挿管の確認、ひいては食道挿管の除外には信頼性が低いことが判明しました。気管挿管試行後のチューブのミスト法の偽陽性率は 0.69 で、食道挿管の 69% でミスト法が使用されていることを意味します。はっきり言って役に立たない! ミスト法は気管挿管の確認(ひいては食道挿管の除外)には非常に不向きであることが分かります。

胸部聴診(腋窩下および前胸部単独、または心窩部聴診との併用(つまり 5 点聴診))の偽陽性率は 0.14~0.18 であり、これは食道挿管の 14~18% がこの検査によって誤って「気管に留置されている」と分類されることを意味します。

Birmingham PK, Cheney FW, Ward RJ. Esophageal intubation: a review of detection techniques . Anesth Analg 1986 ; 65 : 886 の中で、理想的な手術室の状況下で麻酔科医が聴診のみを気管チューブの位置確認の唯一の手段とした場合、16% の症例で誤って気管挿管と判断したと述べられています。

これも役に立たない! むしろ食道挿管の見逃しに役立っているとさえ言えます。

「胸部聴診(あるいは 5 点聴診)という、こんなにも確度の低い臨床所見を、これまで何十年もの間、あたかもゴールドスタンダードかのようにやってきたのか!? 後輩や研修医、学生に教えてきたのか?」と思うとがっかりしませんか?

見つかった研究はわずか 7 件(肺聴診が 3 件、5 点聴診が 4 件)でしたが、食道挿管を除外するために胸部聴診を日常的に使用することを推奨しないのに十分なエビデンスが提供されています。

食道検出装置の偽陽性率は 0.05 であり、これは、食道挿管 20 回中 1 回を「見逃す」ことを意味します。したがって、この検査は、カプノグラフィー、即時気管支鏡検査、または熟練した超音波検査が利用できない場合にのみ使用するのが合理的です。

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