Ｑ：喉頭鏡検査困難の予測因子としての RHTMD の有用性は？: 麻酔科勤務医のお勉強日記

2025年04月22日

Ｑ：喉頭鏡検査困難の予測因子としての RHTMD の有用性は？

Ａ：喉頭鏡検査や気管挿管の困難性を予測する指標として、RHTMD は修正 Mallampati 分類（Modified Mallampati Test：MMT）や上唇咬合試験（Upper Lip Bite Test：ULBT）などと比較されてきました。以下、主要な研究を基に RHTMD の有用性を考察します。

1. 修正 Mallampati 分類（MMT）との比較
・MMT は口腔内の解剖学的評価に基づく分類法であり、咽頭構造の視認性によって気道の確保困難性を予測する。
・いくつかの研究では、MMT は単独では喉頭鏡検査困難の予測に限界があるとされており、RHTMD と併用することで予測精度が向上する可能性が示唆されている（2011 年, 2014 年）。
・一方で、MMT と RHTMD を比較した研究（2018 年）では、RHTMD の方が客観的かつ定量的な指標であるため、より安定した予測因子として機能する可能性があることが報告されている。

2. 上唇咬合試験（ULBT）との比較
・ULBT は患者が上唇を下の歯で咬めるかどうかを評価する簡便な方法であり、顎の可動域や顎関節の柔軟性を反映する。
・研究（2013 年, 2016 年）によると、ULBT は特異度が高いが感度が低く、偽陰性の可能性が指摘されている。一方、RHTMD はより安定した感度と特異度を示し、ULBT と組み合わせることでより精度の高い予測が可能となると考えられる。
・いくつかの研究で、ULBT と RHTMD は、喉頭鏡検査困難を同程度により良く予測できる、と報告されている。

3. 小児患者への適用
・2014 年および 2018 年の研究では、小児患者において RHTMD と他の指標（身長-胸骨頤間距離比, Sternomental Distance Ratio：RSTMD）を比較した。
・結果として、RHTMD は小児患者においても有用な指標となる可能性があるが、RSTMD と併用することでより正確な予測が可能であるとされた。

まとめ
・RHTMD は喉頭鏡検査および気管挿管困難の予測において有用な指標であり、特に身長との関係を考慮することで、患者ごとの相対的なリスク評価が可能となる。
・MMT や ULBT と比較すると、RHTMD は客観的な数値として算出可能であり、単独または他の指標との併用で予測精度を向上させることが期待される。
・小児患者においても RHTMD は有用であるが、他の指標と併用することでより精度の高い評価が可能である。

これらの知見から、RHTMD は気道評価の一つの重要な手段として、今後さらに研究や臨床応用が進むことが期待される。

参考文献
Safavi M, et al. A comparison of the ratio of patient's height to thyromental distance with the modified Mallampati and the upper lip bite test in predicting difficult laryngoscopy. Saudi J Anaesth. 2011 Jul;5(3):258-63.

Shah PJ, et al. Predictive value of upper lip bite test and ratio of height to thyromental distance compared to other multivariate airway assessment tests for difficult laryngoscopy in apparently normal patients. J Anaesthesiol Clin Pharmacol. 2013 Apr;29(2):191-5.

Safavi M, et al. Prediction of difficult laryngoscopy: Extended mallampati score versus the MMT, ULBT and RHTMD. Adv Biomed Res. 2014 May 28:3:133.

Inal MT, et al. [Comparison of different tests to determine difficult intubation in pediatric patients] [Article in Portuguese] Rev Bras Anestesiol. 2014 Nov-Dec;64(6):391-4.

Badheka JP, et al. Comparison of upper lip bite test and ratio of height to thyromental distance with other airway assessment tests for predicting difficult endotracheal intubation. Indian J Crit Care Med. 2016 Jan;20(1):3-8.

Ray S, et al. Ratio of height-to-thyromental distance and ratio of height-to-sternomental distance as predictors of laryngoscopic grade in children. J Anaesthesiol Clin Pharmacol. 2018 Jan-Mar;34(1):68–72.

Kaniyil S, et al. Ratio of height to thyromental distance as a predictor of difficult laryngoscopy: A prospective observational study. J Anaesthesiol Clin Pharmacol. 2018 Oct-Dec;34(4):485–489.