Q:CICV とCICOはどう違うのか?

CICVtoCICO.pngA:CICO(シーアイシーオー)は、気道管理における緊急事態の一つで、Cannot Intubate, Cannot Oxygenate の頭文字を取ったものです。日本語では「挿管困難・酸素化困難」と訳されます。

これは、あらゆる試みにもかかわらず、患者さんの気管挿管が不可能であり、フェイスマスクやラリンゲアルマスクなどの器具を用いたとしても、十分な酸素化を維持できないという、生命を脅かす状況を指します。

英国の第 4 回全国監査プロジェクト(NAP4)の報告によると、麻酔中に発生する CICO の発生率は、約1/5,000(0.02%)とされています。

CICO は、気道確保の最終段階における最も深刻な状態であり、迅速かつ適切な対応が求められます。この状態に陥った場合、速やかに外科的な気道確保(Front of Neck Access: FONA、具体的には輪状甲状間膜切開など)を検討する必要があります。

CICO は比較的まれな状況ですが、発生した場合の患者さんの予後は非常に悪いため、医療従事者は常にその可能性を念頭に置き、適切な準備と訓練を行うことが重要です。

「cannot intubate, cannot ventilate (CICV)」から「cannot intubate, cannot oxygenate (CICO)」という用語への変更は、主に以下の経緯によるものです。

1. 酸素化の重要性への焦点:
以前の CICV という用語は、「挿管できない、換気できない」という状態を指しており、気道確保と換気を主な焦点としていました。しかし、臨床現場において最も重要なのは患者の酸素化です。たとえ換気ができていても、酸素化が不十分であれば患者は低酸素状態に陥り、生命の危機に繋がります。また、とりあえず酸素化が障害されていなくても、換気ができなければ、早晩、酸素化もできなくなります。

CICO という用語は、「挿管できない、酸素化できない」と、より直接的に患者の酸素化の失敗を強調することで、臨床医の意識を酸素化の維持に向けることを意図しています。これにより、挿管困難に陥った際に、換気だけでなく酸素化が維持できているかどうかの評価がより重視されるようになりました。

2. 迅速な Front of Neck Access (FONA)への移行促進:
CICV であっても肺内に十分量の酸素リザーブがある場合には、ある程度の時間的な余裕が期待できます。そう意味では、CICO の方がより差し迫った緊急事態を表現していると言えます。CICO という認識は、酸素化が維持できないという危機的な状況をより明確に示すため、緊急気道確保、特に Front of Neck Access(FONA、輪状甲状間膜切開または気管切開)への迅速な移行を促す効果が期待されています。CICV という用語では、換気が部分的にでも可能である場合に、FONA への移行が遅れる可能性がありました。

3. 提唱者:
この用語の変更は、Andrew Heard 医師によって提唱されました。彼は、気道緊急時において、気道確保(挿管)に固執するのではなく、患者の酸素化を最優先に考えるべきであるという考えを広めました。

4. 普及:
CICO という用語は、困難気道学会(Difficult Airway Society: DAS)などの主要な麻酔関連学会のガイドラインにも採用され、徐々に国際的に普及していきました。

まとめ:
CICV から CICO への用語変更は、気道管理における最も重要な目標を「換気」から「酸素化」へと再認識させ、より迅速かつ適切な緊急気道確保戦略(特に FONA)への移行を促すことを目的として行われました。患者の安全性を向上させるための、より臨床に即した用語と言えるでしょう。

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