【文献抄訳】高齢患者の下肢手術における脊髄くも膜下麻酔時の高比重ブピバカイン分割投与 vs 単回ボーラス投与:血行動態の安定性
今回は、高齢患者さんの脊髄くも膜下麻酔(脊麻)におけるブピバカインの投与方法について興味深い論文を見つけましたので、皆さんと一緒に勉強していきたいと思います。
論文の概要
Comparison of Fractionated Dose Versus Bolus Dose of Hyperbaric Bupivacaine Injection in Spinal Anesthesia: Hemodynamic Stability in Elderly Patients Undergoing Lower Limb Surgeries Cureus. 2025 Jul 25;17(7):e88714.高齢患者さん、特に下肢手術を受ける方では、脊麻後の血圧低下(低血圧)はよく経験される合併症ですよね。これをいかに防ぐか、日々の臨床で頭を悩ませるところだと思います。この論文は、高比重ブピバカインを「1 回でまとめて投与する(単回ボーラス投与)」のと、「2 回に分けて投与する(分割投与)」のとで、どちらが血行動態が安定するかを比較したものです。
研究デザインと対象
- 対象: 60 歳以上の ASA-PS I-II の患者さん 100 名。下肢手術予定の方。
- 方法:
- B 群 (ボーラス群):
ブピバカイン全量を 0.2ml/秒で単回投与。 - F 群 (分割投与群):
ブピバカイン全量の 2/3 を 0.2ml/秒で投与後、90 秒待って残りの 1/3 を 0.2ml/秒で投与。
- B 群 (ボーラス群):
- 評価項目:
血圧、心拍数、昇圧剤の使用量、感覚ブロック高位到達時間など。 - 低血圧の発生頻度:F 群(分割投与群)の方が、B 群(単回ボーラス群)に比べて低血圧の発生頻度が有意に低かったと報告されています。これは臨床上、非常に大きなメリットですよね。
- 昇圧剤の使用量:当然ながら、F群の方が昇圧剤(エフェドリン)の必要量も少なかったとのことです。
- 知覚ブロックの到達時間と広がり:感覚ブロックの最高到達高位や運動ブロックの程度には、両群間で有意な差はなかったとされています。つまり、効果は維持しつつ、安全性が高まる可能性があるということですね。
- 作用機序の考察:分割投与にすることで、薬液が脊髄腔内でよりゆっくりと広がり、交感神経ブロックの急激な発生を抑えることができるため、血行動態が安定したのではないかと考察されています。
論文のポイント
臨床への示唆
この論文の結果は、高齢患者さんの脊麻において、ブピバカインの分割投与が血行動態の安定に寄与する可能性を示唆しています。特に、普段から低血圧のリスクが高いと予想される患者さんに対しては、積極的に考慮すべき投与方法かもしれません。単回投与で一気にブロックが進むことによる交感神経抑制を、分割投与で緩やかにすることで、よりマイルドな血圧変動に抑えられるというのは、非常に理にかなっていますね。
私たち麻酔科医は、常に患者さんの安全と快適さを追求しています。今回の論文で得られた知見を、日々の臨床に活かして、より良い麻酔管理を目指していきましょう!
それでは、今日はこの辺で。また次回の勉強会でお会いしましょう!
2. 下肢手術の脊椎麻酔における分割投与とボーラス投与注射の効果の比較:無作為臨床試験
3. 整形外科手術のハイリスク高齢患者における分割脊椎麻酔-症例シリーズ

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