Q:気管チューブのカフ圧を設定する「PVループ法」とは?

A:PV ループ法(圧力-容量ループ法)を用いたカフ圧設定手技は、人工呼吸器のモニター上の PV ループが「完全に閉鎖した」状態を指標とする、客観的なカフ圧設定法です。

1. PVループの「閉鎖」が指標

カフ注入前.pngPV ループ法では、カフ圧が不十分でリークがある場合、人工呼吸器のモニターに表示される PV ループは完全に閉鎖しません
  • リークがある状態:
    • 吸気中にカフ周囲から空気が漏れるため、吸気で送られた容量と、呼気で戻ってくる容量に差が生じます。
    • その結果、グラフの呼気枝(吐くときの曲線)が吸気枝の開始点に戻らず、「開いた」ループとして表示されます。
  • カフ注入後.png
  • カフ圧が適切な状態(完全閉鎖):
    • カフに空気を少量ずつ追加していき、リークが完全になくなると、吸気と呼気の容量が一致し、PV ループが完全に閉鎖します
    • この「完全閉鎖」が、気道をシールするために必要な最小限の容量が注入されたことを示します。

2. 手順の概要

この手技の具体的な手順は、主に以下の通りです。
  1. 人工呼吸器(麻酔器のベンチレーター)に患者を接続し、PV ループを表示させます。
  2. カフに少量の空気(例えば 2 mL)を初期注入します。
  3. PV ループの形状を確認しながら、カフに 0.5 mL または 0.2 mL ずつ、空気を段階的に追加していきます。
  4. PV ループが完全に閉鎖したことを確認できた時点で、カフへの空気注入を停止します。
この方法を用いることで、カフ圧測定器で設定する 20~30 cmH₂O よりも、低いカフ圧と容量で適切なシーリングを達成できることが報告されています。

Almarakbi ら(2014 年)は、気管チューブのカフ膨張において、従来のジャスト・トゥ・シール(Just-to-Seal: JS)法と比較し、圧容量ループ(Pressure-Volume Loop: PV-L)閉鎖を指標とする方法の有効性と、術後のカフ関連合併症の発生率を比較することを目的とした前向き無作為化臨床試験を実施しました。合計 100 名の患者を対象に、PV-L 閉鎖を指標としてカフを膨張させる群(PV-L 群)と、呼気終末でリーク音が聞こえなくなるまで膨張させる JS 法を用いる群(JS 群)に無作為に割り付け、抜管後 2 時間と 24 時間での咽頭痛、咳、嗄声といったカフ関連合併症の発生率を評価しました。
  • PV-L 群は JS 群と比較して、カフ内空気量が有意に少なかった(中央値[四分位範囲]: 4.05 [3.7 − 4.5] ml vs 5 [4.8 − 5.5] mlP <0.001)。
  • PV-L 群は JS 群と比較して、カフ内圧が有意に低かった(中央値[四分位範囲]: 18.25 [18 − 19] cmH2O vs 33 [32 − 35] cmH2OP≦0.001)。
  • PV-L 群は、JS 群と比較して術後のカフ関連合併症の発生率が有意に低かった(咽頭痛、咳など P≦0.009)。
  • 圧容量ループ閉鎖を指標とする方法は、低いカフ内圧で適切な気道シーリングを可能にし、術後のカフ関連合併症の発生を減少させる効果的な手技である。
と報告しています。

Almarakbi WA, et al. Tracheal tube cuff inflation guided by pressure volume loop closure associated with lower postoperative cuff-related complications: Prospective, randomized clinical trial. Saudi J Anaesth. 2014 Jul;8(3):328-34.

Supaopaspan ら(2025 年)は、学童期小児における気管内チューブのカフ設定方法として、フロー-容量(FV)ループによるガイドと、聴診による最小閉鎖容量(MOV)法との比較を行い、カフ圧、気道内漏出の有無、および術後合併症の発生率を評価する目的で、無作為化対照試験を実施しました。FV ループ群では、換気曲線上でリークがない状態を確保するためのカフ容量を決定し、聴診ガイド群では、気管領域の聴診でリーク音が消失する最小容量を設定しました。
  • FV ループ群は、聴診ガイド群と比較して有意に低いカフ圧で設定された(例:14 cmH2O19 cmH2O)。
  • 測定されたカフ圧間の一貫性(再現性)も、FV ループ群の方が統計学的に良好であった。
  • FV ループ群は、聴診ガイド群と比較して、カフ圧が 30 cmH2O を超える過剰な高圧の発生率が低かった
  • カフ関連の気管損傷および術後 1 時間の咽頭痛の発生率は両群間で差がなかった。
と報告しています。

Supaopaspan W, et al. Endotracheal Tube Cuff Inflation Methods in School-Age Children: Flow-Volume Loop-Guided Versus Stethoscope-Guided. Respir Care. 2025 Feb;70(2):176-183.

Murmu ら(2025 年)は、気管内チューブカフの膨張法として、最小閉鎖容量(MOV)法、精密カフ圧設定法(25 cmH2O に設定)、PV ループ法、およびマニュアル触覚法(パイロットバルーンの感触)の 4 つの方法を比較し、それぞれの方法で達成されるカフ圧と、術後のカフ関連合併症(咽頭痛、嗄声、咳嗽)の発生率を評価する目的で、成人患者を対象とした無作為化臨床試験を実施しました。PV ループ法では、カフ容量を増加させていき、PV ループが完全に閉鎖した時点を最小閉鎖容量とし、その容量でカフを維持しました。
  • MOV 法、PV ループ法、およびマニュアル触覚法で設定されたカフ圧は、精密カフ圧設定法(25 cmH2O)と比較して有意に低いカフ圧となった。
  • PV ループ法が、術後の合併症(咽頭痛、嗄声、咳嗽)の発生率が最も低い方法であった。
  • マニュアル触覚法が、カフ圧が 30 cmH2O を超える過剰な高圧の発生率が最も高かった。
  • PV ループ法は、合併症の発生率を低く保ちながら、気道内漏出を効果的に防ぐことができた。
と報告しています。

Murmu S, et al. Assessment of pressure-volume loop, inflation to precise pressure, minimum occlusive volume, and manual palpation techniques for inflation of endotracheal tube cuff: A randomised clinical study. Indian J Anaesth. 2025 Nov;69(11):1221-1227.


🔬 PV ループ法によるカフ圧設定の有用性に関する考察

上記 3 つの文献の知見を総合すると、気管チューブのカフ圧設定において、圧力-容量(PV)ループ(またはフロー-容量(FV)ループ)の閉鎖をガイドとして用いる方法は、カフ関連合併症の発生率を低減し、より最適なカフ圧を設定できる点で非常に有用であると考えられます。
PV ループの閉鎖は、換気中にカフと気管壁の間からの空気漏れが完全に消失した点、すなわち「漏れない最低カフ容量(Minimum Occlusive Volume: MOV)」を、客観的かつ視覚的に確認できることを意味します。この容量で設定されたカフ圧は、合併症リスクを減らすための「最低圧」となります。
Almarakbi ら(2014)、Murmu ら(2025)、Supaopaspan ら(2025)の全ての研究が、このループ法が、従来の触覚法や聴診ガイド法、あるいは固定圧設定と比較して、カフ圧を有意に低く設定できることを一貫して示しています。特に Murmu ら(2025)の研究では、PV ループ法が術後の合併症発生率を最も低く抑える結果となっており、この「最低圧」設定の臨床的意義を裏付けています。

個人的な見解として、私もカフ圧計を使ってグリーンゾーン(推奨カフ圧)の 20-30 cmH2O に設定すればそれで十分だと思っていた時期がありました。しかし、考えてみると、多くの患者さんでは、最高気道内圧(Ppeak)を上回る程度の圧があればリークは防げますが、麻酔中の最高気道内圧は 15 cmH2O 以下であることが多いため、実はそれほど高いカフ圧は必要ないはずです。このPVループ法は、「漏れない最低カフ容量」ひいては「最低圧」を客観的に設定することができて有用なカフ圧設定法であり、不必要な高圧設定(オーバーインフレーション)を防ぐことで、気管粘膜への過度な圧迫による虚血性損傷や術後合併症のリスクを最小限に抑えることが可能となります。これは、安全で質の高い麻酔管理において、客観的・定量的な指標を提供する非常に重要な手技であると言えます。

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