Q:推奨カフ圧の下限値 20 cmH₂O は本当に必要なのか?
- 研究対象患者の約 78%(221/284 例)が、推奨範囲外(20cmH₂O 未満または 30cmH₂O 超)の最小カフ圧を必要とした。
- カフ・気道面積差の平均値は、カフ圧が 20cmH₂O 未満の群で最も大きく、30cmH₂O超の群では負の値となった。
- カフ・気道面積差と最小カフ圧の間には負の線形関係が示され、カフ・気道面積差が小さい(すなわち、カフが気道に対して相対的に小さい)患者ほど、気道閉鎖のためにより高い最小カフ圧を必要とした。
Wu HL, et al. Relationship between difference in endotracheal tube cuff area and airway area with minimum cuff pressure for adequate airway sealing: a prospective observational study. Sci Rep. 15(1):5875.
つまり、患者の解剖学的気管径に比べて細すぎるチューブを使用した場合には、推奨圧上限の 30 cmH₂O よりも高い圧でカフを膨らませないと気道がシールできない(ガスリークを防げない)ということです。また同時に、この文献では、被検者 284 人のうち 166 人(58%)で、カフ圧は 20cmH₂O 未満で管理できています。
一般的に推奨カフ圧は、20~30cmH₂O とされていますが、推奨カフ圧の上限値は、気管壁の毛細血管の潅流圧によって規定されていますが、推奨カフ圧の下限値が 20cmH₂O とされている理論的根拠はいったどこにあるのでしょうか?
多くの施設で推奨される気管チューブのカフ圧の下限値20 cmH₂Oは、主に「気道シーリング(密閉)」の確保と「誤嚥の予防」という 2 つの重要な臨床的目標に基づいています。
🧐 推奨カフ圧の下限値(20 cmH₂O)の理論的根拠
推奨カフ圧の下限が 20 cmH₂O とされる根拠は、以下の圧力関係にあります。1. 気道内圧(P-peak/P-plat)よりも高く保つため
人工呼吸管理中、カフ圧は患者の気道に加わる最大の圧力よりも常に高く保たれている必要があります。- カフ圧が気道内圧よりも低い場合:吸気時にカフが気道内圧に負けて一時的に収縮し、カフの周囲を空気が漏れるだけでなく、胃内容物や口腔内分泌物が下気道へ流れ込む微量誤嚥(Microaspiration)が発生するリスクが高まります。
- 一般的に、成人患者の人工呼吸管理におけるプラトー圧(P-plateau)やピーク圧(P-peak)は、通常15~20 cmH₂O以下に設定されます。
- 安全性を確保し、確実にシーリングを維持するため、この一般的な気道内圧の最大値(20 cmH₂O)を下限の基準として設定し、常に気道内圧を上回るように管理することが推奨されています。
2. 食道内圧(下部食道括約筋圧)の変動に対応するため
カフは気管をシールするだけでなく、誤嚥の防御壁としての役割も担っています。- 誤嚥防止の観点: 胃から逆流した内容物や口腔内分泌物が下気道へ入るのを防ぐためには、カフがこれらの流体圧に負けない必要があります。
- 過去の研究により、下部食道括約筋(LES)の圧や、誤嚥を引き起こし得る食道内の逆流圧が、平均で 15 cmH₂O 程度、最大で 20 cmH₂O 程度に達することが示唆されています。
- カフ圧を 20 cmH₂O に設定することで、一般的な咳や逆流に伴う圧変動に対しても、安定して気管内を密閉し、誤嚥を効果的に予防できると考えられています。
💡 Wu らの研究結果が示唆すること
前記した Wu らの研究で 58% の被検者がカフ圧 20 cmH₂O 未満で管理できたという結果は、以下の点を裏付けています。- 個別化の重要性: HVLP カフの設計特性(カフと気管の面積差が大きい)が上手く機能している患者では、一般的なガイドラインの下限値である 20 cmH₂O よりも低いカフ圧でも、十分に気道シーリングと誤嚥防止が達成できていることを示唆しています。
- 安全性の追求: カフ圧の上限値 30 cmH₂O は気管粘膜の血流を阻害しないための安全上の上限ですが、この研究は、下限値 20 cmH₂O はあくまで「安全確保のための目安」であり、カフ圧を個別化することで、安全性を損なうことなく、さらに低圧での管理(粘膜への圧迫軽減)が可能であることを示唆しています。

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