【文献抄訳】重症腹腔内感染症・敗血症患者における肥満と死亡率:「肥満パラドックス」に関する国際コホート研究
今回は、重症患者における Body Mass Index(BMI)と死亡率の関係、特に「肥満パラドックス」について検討した興味深い国際コホート研究をご紹介します。
【出典】Body mass index and mortality: The "Obesity Paradox" in critically ill patients with intra-abdominal infection or sepsis - An international cohort study Intensive Crit Care Nurs. 2025 Nov 28:93:104281.
【研究の背景】
これまでの多くの研究で、健康な集団における高 BMI、特に肥満が様々な疾患のリスク増加と関連していることが示されています。しかし、集中治療室(ICU)に入室するような重症患者では、逆に高 BMI が良好な予後と関連する、いわゆる「肥満パラドックス」という現象が報告されています。この研究は、特に腹腔内感染症(IAI)または敗血症の重症患者において、この肥満パラドックスが存在するかどうかを検証することを目的としています。【研究方法】
この研究は、国際的な前向きコホート研究であるDREAM(Defining the Role of host Response to intra-abdominal infection and sepsis in the critically ill)レジストリのデータを用いて行われました。DREAM レジストリは、ICU に入室した腹腔内感染症または敗血症の成人患者を対象としています。患者はBMIに基づいて以下のカテゴリーに分類されました。
- 低体重:BMI <18.5 kg/m²
- 正常体重:BMI 18.5–24.9 kg/m²
- 過体重:BMI 25.0–29.9 kg/m²
- 肥満:BMI ≥ 30.0 kg/m²
【研究結果】
研究の結果、低体重の患者では正常体重の患者と比較して、28日死亡率および院内死亡率が有意に高いことが示されました。一方、過体重および肥満の患者では、正常体重の患者と比較して死亡率が有意に低い傾向が見られました。これは、腹腔内感染症または敗血症の重症患者においても「肥満パラドックス」が存在する可能性を示唆するものです。具体的には、多変量解析で調整した後も、低体重は独立した死亡リスク因子であり、過体重および肥満は死亡リスクを低下させる因子として関連していることが示唆されました。
【考察と今後の展望】
この研究結果は、重症腹腔内感染症・敗血症患者における BMI と死亡率の複雑な関係を浮き彫りにしました。なぜこのような「肥満パラドックス」が起こるのかについては、いくつかの仮説があります。例えば、肥満患者はより大きな栄養貯蔵を持ち、重症疾患時の異化亢進に耐えやすい、あるいは炎症反応に対する調節機能が異なる、といった可能性が考えられます。しかし、この結果は肥満が健康に良いということを意味するものではありません。あくまでも「重症状態」という特定の状況下での現象であり、健康な状態での肥満がもたらす長期的な健康リスクは依然として認識されるべきです。
今後の臨床においては、重症患者の栄養管理や予後予測において、BMI を単なるリスク因子としてだけでなく、そのパラドックス的な側面も考慮に入れる必要があるかもしれません。さらに、この肥満パラドックスのメカニズムを解明するための基礎研究や、各BMIカテゴリーに応じた最適な治療戦略を確立するためのさらなる臨床研究が期待されます。

この記事へのコメント