Q: Atelectrauma と Biotrauma とは何か?
人工呼吸器関連肺損傷(VILI: Ventilator-Induced Lung Injury)は、Volutrauma(容量外傷)とBarotrauma(圧損傷)の他に、主に以下の 2 つの要素によって構成されています。
これらの要素は相互に関連し、肺損傷を複合的に悪化させます。

- Atelectrauma(無気肺外傷・虚脱外傷)
- Biotrauma(生物学的損傷)
1. 😔 Atelectrauma(アテレクトラウマ/無気肺外傷)
Atelectrauma は、肺胞の虚脱(無気肺)と、それに続く再開通を繰り返すことによって発生する肺組織の損傷です。メカニズム
- 無気肺(Atelectasis): 換気設定(特にPEEP: 呼気終末陽圧)が不十分な場合、呼気相の終わりに肺胞が完全に虚脱(しぼむ)して無気肺状態になります。
- 周期的虚脱・再開通(Cyclic Opening and Closing): 次の吸気で虚脱した肺胞が無理に引き伸ばされ、再び開きます(再開通)。
- ずり応力(Shear Stress): この「閉じる → 開く」という動作の繰り返しは、肺胞の内壁にある肺胞上皮細胞と、それを裏打ちする細胞に強い機械的なずり応力(摩擦や引き裂き力)を発生させます。
- 損傷: この応力により、肺胞の微細構造が損傷し、炎症反応が誘発されます。
予防策
- 適切な PEEP の設定: 呼気相の終わりでも肺胞を虚脱させないよう、適切なレベルの PEEP(呼気終末陽圧)を設定することが重要です。これにより、肺胞の周期的虚脱と再開通を防ぎます。
- リクルートメント手技(Recruitment Maneuver): 一時的に高い圧をかけて虚脱した肺胞を開き、その後適切な PEEP で維持する手技が用いられることがあります。
2. 💥 Biotrauma(バイオトラウマ/生物学的損傷)
Biotrauma は、人工呼吸器による機械的ストレス(Volutrauma、Atelectrauma など)の結果として発生する、炎症性の損傷のことです。メカニズム
- 機械的ストレス → 炎症の誘発: Volutrauma や Atelectrauma による肺胞上皮・内皮細胞の損傷は、細胞から炎症性のメディエーター(サイトカインなど)の放出を引き起こします。
- 例: インターロイキン-6 (IL-6)、腫瘍壊死因子-α (TNF-α)
- 全身への波及: これらの炎症性メディエーターは、血流に乗って肺外へと流れ出し、全身性炎症反応症候群(SIRS)や多臓器不全(MODS)を引き起こす可能性があります。
- 損傷の悪化: 全身に波及した炎症は、肺自体の損傷もさらに悪化させます。
意義
Biotrauma は、VILI が単なる物理的な損傷(圧や容量による外傷)に留まらず、重症患者の全身の予後を左右する病態であることを示しています。肺保護換気戦略は、物理的な損傷(Volutrauma/Atelectrauma)を防ぐことによって、結果的に Biotrauma の発生と重症化を防ぐことを目指しています。総合:VILI の構成要素
人工呼吸器関連肺損傷(VILI)は、これらの要素が複雑に絡み合って発生します。VILI の構成要素 主な原因 結果的な損傷のメカニズム 予防の鍵となる指標 Volutrauma 過大な一回換気量(VT) 肺胞の過伸展による物理的損傷 プラトー圧 ( ≤ 30 cmH2O) Barotrauma 過剰な気道内圧 (PIP/Ppeak) 肺胞の破裂による空気漏れ(気胸など) プラトー圧 (≦30 cmH2O) Atelectrauma 不適切な PEEP(低すぎる) 肺胞の周期的虚脱と再開通によるずり応力 適切な PEEP (Open Lung Approach) Biotrauma 上記の機械的損傷全て 炎症性メディエーターの放出と全身への波及 全ての機械的損傷の予防
現在、人工呼吸管理の基本は、これらの損傷を回避するための肺保護換気戦略であり、「低いVT」「低いプラトー圧」「適切な PEEP 」の 3 つが柱となっています。

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